[コメント] 119(1994/日)
しかし、冒頭のこの店内だけで、今となっては凄い役者たちだ。竹中直人、塚本晋也、温水洋一、浅野忠信、津田寛治が客で、マスターは岩松了、店員に石堂夏央。赤井英和は店の外で海に向かって立ちションをする。
上の段落のマスターと店員を除く面々が、消防署のメンバーだ。白野消防署波楽里(はらり)分署。この分署の外観ショットもいい。屋内一階の窓側が、管制室のように張り出しており、窓から海が見渡せるのがいい画になる。結局、彼らが出動したのは、冒頭のキャンプファイヤーの通報と、食あたりの救急患者、老人ホームの猿騒動の3回だけ。つまり、火災での出動シーンは無い。私は、てっきり消防隊の英雄的活躍が終盤で描かれるのだろうと思いながら見ていたのだが、結果的に、これを脱臼ワザで回避するのも本作の良さだろう。全体に、ゆっくりしたフェードアウトで場面転換するのだが、これも、のんびりした映画のリズムに寄与している。
では、本作のプロットを駆動するテコになるモノは何なのか。それが、鈴木京香だ。波楽里の町に、大学の研究者になっている鈴木京香−ももこが帰ってきたことで、消防隊メンバーが色めき立つ。最初、竹中と鈴木の出会いの場面では、竹中が一目惚れしたのかと思わせるのだが、こゝは曖昧な表現だろう。対して、赤井と鈴木の出会いでは、こちらは完全に赤井の一目惚れが描かれている。そして、徐々に、竹中が、赤井と鈴木の仲を取り持つようになる。
本作は赤井がビリングトップだが、竹中が描かれている比重もかなり大きい。その家庭環境の描写もけっこう尺を取る。竹中は父親の須賀不二男と息子と3人暮らし。須賀は、箪笥の裏に落ちた何かを探している後ろ姿で登場。それは、ドライバーだったのだが、彼がドライバーを探すシーンは後で反復される。ちょっと呆けてきたところもある老人だが、鈴木と2人のシーンもある良い役だ。また竹中は、ブリキの玩具の消防車をコレクションしていて、これもちゃんと機能させる。
中盤は赤井と鈴木が良い雰囲気になっていく過程が描かれていて、赤井が主演者らしい目立ち方なのだが、終盤の雨の夜、分署に鈴木が訪れて、宿直していた竹中と会話し、雨の道を2人で歩くシーンでは、やっぱり竹中が主人公じゃないか、と思ってしまうのだ。考えてみると、中盤でも、鈴木が竹中の家で夕食を馳走になる場面の後、竹中が送って行く夜の道のシーンでは、2人の後ろ姿を俯瞰で移動撮影しており、こゝだけ突出してキャッチする画面造型だったのだ。全編ゆるい演出が横溢する映画だが、時折り、このような気合いの入ったショットも現れて驚かされる。
#備忘でその他の配役等を記述します。
・分署の別班の隊長に本田博太郎。本署の隊員として奥山和由と真田広之が特出。
・分署に来る生保レディは伊佐山ひろ子。塚本と関係があったのか。
・鈴木京香の母親役は久我美子。町の豆腐屋さん。鈴木の大学院の先輩(髭男)は宮城聰。その妻に石川真希。
・浅野の妻は大塚寧々。
・ホームの老人の一人はマルセ太郎。炎の中で叫ぶショット挿入がちょっとイヤ。
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