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[コメント] バットマン・リターンズ(1992/米)

前作がバットマンの映画化だったことに対して、この映画はティム・バートンのバットマンである。だが、それでいいんだ。バットマンなんてもんは歴史が深いしクリエイターの濃い感情移入があるほうが面白いに決まってる。
がちお

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アメリカでも賛否両論の多いこの映画だが、俺はあえて賛成であるといいたい。バートンの深い情念のこもった映画であり、彼自身の青春を恐らく反映させたであろうキャラクターのペンギンを出す。

それまで原作でのペンギンは怪盗紳士だった、自らを紳士的であると思い込みその延長線上から犯罪を犯すという男だった。だが、当然客観的にみたらこういう男は紳士ではなく自分を馬鹿にされると激昂するプライドの高い存在だった。その後、犯罪紳士というキャラがやがてそこまでウケるというわけでもないことがわかった80年代以降彼はフィクサーや犯罪会の黒幕となり陰謀を策謀を張り巡らし、時にはバットマンに情報を強制的に脅されて求められ殺したり殺されそうになったりしつつもコミックの世界では今なお生き続けている。

この映画でのペンギンは、ティム・バートンが愛した古典的ホラー映画のモンスターたちを原作にして、キラークロックのような原作コミックのヴィランを下敷きにしたオリジナルの悪役といってもいいぐらいである。顔のデザインは確かにモノクロ映画のオペラ座の怪人にでてくる怪人に非常にそっくりである。

バートン自身、インタビューで語っていることだが「ジョーカーは幼いころから好きだったんだが、ペンギンはそこまで好きじゃなかった。だから僕なりに面白くしてみた。」ということらしい。

恐らく、世の二次創作製作者が自分の好きなキャラをいかに魅力的にみせるかをこだわっていることに対してバートンは好きではないキャラをここまで魅力的にしてしまったのだ。

この考えは天才だといっていいだろう。

で、このペンギンだがこいつに感情移入できる反面、ぶっちゃけかなり怖い奴だとおもっている。

この辺りはバートンの描くフリークスの中でも最高の部類に入ると思う、俺はシザーハンズのような善人じゃあないしマーズアタックの火星人やジョーカーのような同情のできない生まれついての悪党というわけでもない。(俺はバートンのジョーカーは生まれついてのクズ野郎だとおもっている。)

ペンギンはこのさじ加減が非常にすばらしく、感情移入ができ哀れむことができるが同時に恐ろしく不気味で手に負えなくなるべく近寄りたくない存在に描かれている。

これは我々自身の持っている面倒くさい性格の一面をよく描けているなぁとおもう、と同時に我々健常者が障害者に対して抱く感情そのものではないかと思う。

一見、フリークスのためのファンタジー映画にみえるがバートン版バットマンというのは奥が深く我々の生きるリアルな社会の中での一面も描いてるのだ。

バットマンのペンギンに対する目線もいい、ペンギンのことを疑い信じない辺りが非常にバットマンらしいが彼の境遇にもやや同情できるものがあるのか。彼の最期、死体を子分だった(本物の)ペンギンたちが運んでいく際には彼の死を遠くからただただ見つめるだけなのだ。

このアングルがまた彼の死のせつなさに拍車をかけており、バートンがいかに映像で語る映画監督であるかを納得させられる出来である。

最後に余談ではあるが、その後コミックの世界でもバートン版ペンギンに影響を受けたような話が増えた。ジョーカーズ・アサイラム(ジョーカー自身が他の犯罪者たちのことを語る短編、とても面白いので邦訳希望)ではペンギンのいじめを受けていた少年時代と彼が人の目を気にしすぎるあまり、周囲の人間が自身の悪口を言っているのではないかと欺瞞に思った狂人として描かれる反面、娼婦に恋をして彼女を助けようとするのである。闘争と嫌悪ばかりの日々だった彼の心に安息が持たされると思いきや彼女はある物に触れてしまい彼の悪の秘密を知ってしまう・・・という話なのだがこの映画のペンギンに同情した方には一読をオススメしたい。ある意味、死を迎えれたこの映画のペンギンよりもその結末は悲惨そのものである。

やはり、この映画はカルト映画になっているな。とコミックを読みながらこの感想を書いてみた。

そろそろ12月になる、また再びあのペンギンの姿に恐怖と同情に震えながら涙をしてみたい。

(評価:★4)

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