[コメント] 新幹線大爆破(1975/日)
傑作である。単に映像上の迫力を求めるという理由だけでリメイクなどしてほしくないと思うくらい完成度が高い。冒頭の夕張や東京での静かに始まるシーンから一転、神奈川の平野部(なのだろう、小田原へ向かっているのだから)を疾走するひかり号を、上空から追いかけるタイトルバックのシーンが、実にスピード感に溢れ、いやが上にも期待を高める。犯人像が、上っ面の犯罪者集団などでなく、人生に敗北し一発逆転に賭けるうらぶれた男たちであるのも好感が持てる。倒産した工場経営者・沖田(高倉)はともかく、集団就職で上京したものの食いっぱぐれた若者・ヒロシ(織田)や、学生運動崩れの元左翼・古賀(山本)、という設定にも、当時はかろうじてリアリティがあったのだろうと想像がつく。ただ元左翼が、革命、と口走るのにはつい笑ってしまったが、これは許してほしい。時代のギャップはいかんともし難い。
守る側というか、警察はもちろんだが、特に国鉄職員の必死の働き振りが男らしく格好よかった。別に軍人や警官でなくとも、それぞれの現場で信念を持って働くこと自体が命懸けなことであるという、言葉やストーリーで説明したらまどろっこしくなる所を、要所要所に有名俳優を配置することで簡潔に表現したのは、実は優れた演出だ。オールスター・キャストは安易に使ってほしくない手だが、これは成功した稀有な例だろう。
乗客描写など細部も優れているのだが、なによりも素晴らしいのは、新幹線に爆弾を仕掛けるというこの発想である。金の受け渡し方法までもが、シンプルかつ意表を衝くという、この手の犯罪の成立に絶対必要なリアリティを備えている。(実際に成功するかどうかは別問題としても)この作品の企画者たちが、なぜ映画などにせず犯罪を実行しなかったのかが不思議なくらいだ。あの装置が実は完成していなかった、以外の理由は考えられない。まあ、あちこちに向かって何本も走ってる今と違って、私が子供の頃は新幹線といえば東海道新幹線しかなく、まさに夢の超特急という存在だったので、アイデア自体にウットリしてしまう部分はなくはないが。
最大の不幸は、日本人なのに『スピード』の方を先に観てしまったことだ。(『スピード』自体は面白い映画だった。) と言うより、当時はこんな元ネタ映画があることすら知らなかった。自分の情報収集の努力は棚に上げて言うが、これはあまりにも悲しい状況だ。映倫、ってものがあるのだから、たまにはこういう方面でも頑張ってみたらどうか? と文句も垂れてみたくなる。
・・・とか言いつつ、本当はリメイク希望です。
85/100(02/05/26再見&書直)
※元コメント《今撮っても、日本じゃこれ以上のものは撮れないんじゃないか?》
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