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[コメント] シャブ極道(1996/日)

直截的なタイトルがなんとも素敵な、稀有なパワーに満ち溢れた映画。
G31

 ついこないだまで、のような気がするのだが、家庭にクーラーなんてものはなかった時代があった。日本のクソ暑い夏は、いくら扇風機を回したところで、クソ暑いことに変りはなく、家ん中でただダラダラと寝そべっているしかなかった。昭和48年の大阪からスタートするこの映画は、そんな時代のクソ暑さを見事に切り取っており、傑作の予感を抱かせた。

 だがヤクザ映画としては、縦糸となるべき抗争の部分に魅力も説得力もなく、話の背景が20年以上に渡ることもあって、散漫で冗長。私がこの映画に感じた魅力は、第一に役者陣の魅力で、そこから産まれる人間たちの魅力、ヤクザという、規範を超えたところに棲む人間たちの、滑稽かつ愛すべき人格である。

 役所広司演じる真壁というヤクザは、多くの組が表面上は禁制とする覚醒剤(シャブ)を手広く扱うだけでなく、自分自身も覚醒剤を打つのが大好きで、シャブのもたらす高揚感こそ至福と疑わない男。それどころか、シャブを日本中に広めることで、日本全土を幸せにできると確信するシャブの伝道師だ。普通は、ここまでシャブ漬けになれば脳が冒され廃人になるのだろうが、常人をはるかに超えた耐性の持ち主で、精神的にも肉体的にもビクともしないから性質が悪い。

 (こんな奴が本当にいたのかどうか疑わしいけれど)最終的に真壁は、春山茂雄のベストセラー、『脳内革命』よろしく――これは「脳内モルヒネ」だったが――、自分の脳内でシャブ、つまりメタンフェタミンを造り出すことを究極の目標とする。

 この時の役所広司の表情が凄い。神の領域に到達した、などと言うと言葉遊びが過ぎるかもしれないが、実際にクスリをヤっているわけでないとしたら(もちろんヤってないだろうが)、まさに脳内覚醒剤を生成したかというような――。この後『うなぎ』『Shall we ダンス?』『金融腐食列島』『失楽園』と、日本映画は役所広司が主演しなけりゃ映画じゃないといわれる状況に陥るが(私がそう言ってるだけだが)、彼の大活躍を予感させる大演技だった(活躍しなけりゃ単にヤバイ人と言われていたかもしれんが)。

 渡辺正行も真壁の弟分として、常に兄貴についていく思い遣り深いヤクザを見事に演じていた。また、早乙女愛という女優の存在を認識させてくれる映画でもあった。

75/100(04/04/29記)

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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