[コメント] にっぽん泥棒物語(1965/日)
本作は学生時代に一度見逃した、という思いが強くて過剰な期待を抱いていたかもしれない。ようやく見ることが出来たが、ある意味で、社会派エンターテイメントとしての山本薩夫の特徴と限界を表した一作といえるかもしれない。
前半の破蔵師の仕事ぶりの描き方が秀逸。これだけでも一本の映画として成立するだけの要素をすべて持ち合わせていると思う。
この部分ではさすがに山本薩夫は娯楽映画、いわゆる魅せる映画づくりが上手いと思わせる。また、三國連太郎がダム造りの飯場で働く場面の出だしを派手な発破のシーンで飾るなど、観客の目を楽しませることに気を配っているように思えた。
あれこれと小難しいことを言うだけでなく、見ていて楽しめる映画をつくれるというのは大したものだと思うが、時おりそのバランスが崩れがちになるのも惜しいところだ。
この映画でも、三國連太郎の心情変化はやや唐突な感じがするし、裁判シーンもそれなりに笑えるシーンもあるのだが、ホントにそれなりで、ありがちな展開ともいえる。この辺が、「こうあらねばならない」というのが出すぎたのかなあ、なんて思ってしまう。
でも、伊藤雄之助と三國連太郎とのやり取りは、全編を通じて出色。まさに貫禄十分の名優によるがっぷり四つを自在にさばいてみせる、山本薩夫の面目躍如という感じもする。
また若き千葉真一が、正義派弁護士の役で思いっきり青臭くて生硬で、ある意味、山本薩夫の姿を投影しているようにも見えてしまった。
そういう意味では、役者を自分の掌にのせて自在に操りながらも、その役者の持ち味をしっかりと伸ばしていく、役者を生かすことに長けているのが山本薩夫の真骨頂か。
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