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[コメント] 暗夜行路(1959/日)

方々足りない凡作だが、原作の自己中男の三人称ひとり語りが映画化で相対化され、好演の山本富士子はじめ周辺人物の人となりが浮かび上がってきているのは美点、とは云えると思う。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







いったい池辺良は何者なのか。祖父と母との不義の子供はなぜ罪悪感を生むのか。「悪い血」とは何のことか。妻のレイプ被害になぜ不愉快を覚えるのか。突然の短気はどういう病なのか。

これらは池部の謙作が、封建制度・家制度にどっぷり浸かった人間だったから、という批評であっさり説明がつくことである。例えばレイプは犯罪であり、いまなら仲代達矢は告訴ものであるが、池部はそこに全く思いが至らず、ただ傷物にされた妻を持つという面体から病んでしまう。

戦後もう何年も経っているのに、名脚本家八住ともあろう人が、これに全く思いをいたそうとせず、ただ大正時代の常識をなぞるばかりだ。これは不徹底と批判されて然るべきと思う。そんなこと、戦前からハリウッドに親しんできた映画人には当たり前に批評できることだろうに。志賀生前の制作で遠慮があったのだろうか。

映画としても大して面白くない。特に終盤の大山の件はまるで説得力を欠いている。池部のいる山裾がセットで風景がロケと丸判りなのがいけないし、その他風景に語らせることに大いに失敗している。ホンとしても、先に手紙で和解を語るのは劇化の失敗だろう。そして原作を大した閃きもなくトレースするだけで延々長い。淡島千景の件は全部なくてもいいのではないか。

良かったのは新婚初日に酒呑んで池辺良が帰ってみると山本富士子が外出しており、追いついて問いただすと「貴方が倒れているかと探していた」と云う科白。それとプラットホームの山本富士子転倒。後者はスタントなんだろう、後頭部をホームに叩きつけており恐怖感が伝わってきた。

(評価:★3)

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