[コメント] 死んでもいい(1992/日)
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90年代に名美さんシリーズは撮れるか。しかし面白いのはやっぱり永瀬正敏が引っ込んだ材木工場周辺の幾つかの件で、木場でふたりを延々追いかけるショットなど、侘しさに求心力がある。旅館でキャメラがトラックダウンしたら見えてくる布団とか、枕元灯で死んでいる蛾とか、やたらベタだが愉しい。
一方、建売新築住宅とか高級ホテルなどのロケに求心力はない。決められない女、名美、というホンはいいもので、俳優もいい(シーツは余計)のに、『赤い教室』や『ラブホテル』の輝きが失われているのは、かかってバブリーなロケによるものだと思う。大竹しのぶが幾ら不幸な出自を語っても、なんかタフガイと若い燕を両天秤にかける有閑マダムのお遊びに見える。ラストで大竹は死んでいるのだろうが、淡色に色調整されたホテルのベッドで煙草咥えて独白されたのでは切実さから遠く、やっぱり有閑マダム系にしか見えない(大竹なら有閑マダムでもいい、という意見もあろうが、それは別の話だ)。
長回しにキャメラがほとんどフィックスなのは相米とは別のことをしようとする意欲の現れだとは思うが、そこで多用されるローアングルは控え目に云って面白いものではない(郵便受けから飛び出る腕の件だけは良好)。古典的な常識からは山場を彩るべき雨を何度も降らせ過ぎだし、驚く永瀬への鈴木則文みたいな三連続ズームなどはアホらしいレベルに堕している。ベストショットはカーラジオでちあきなおみの艶歌(「黄昏のビギン」)を偶然聴いて室田日出夫が泣く件(同じ歌を後で口ずさんだりする)だが、題材に相応しい侘しさはラジオの電波の向こうにしかなかった。
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