[コメント] 雨の中の慾情(2024/日=台湾)
それは、アバンタイトル前の、新手の製作会社ロゴかと見紛うようなモンタージュの挿入部分から始まっている。伊藤大輔『長恨』の大河内伝次郎(その体中に縄がかかるショット)が挿入されるのだ。
タイトルを実装するトップシーン(アバンタイトル)がまず最強。その最後に虹を映して、プリズムの光に繋げる。この光は終盤まで繰り返し出現する。主人公−成田凌の部屋には目の絵が無数に貼られていて、目の実物は、成田のクローズアップとして現れることになる。すぐに大家の竹中直人や作家志望の森田剛が登場し、ヒロインの福子−中村映里子の裸体(尻と背中を向けて横たわった姿)が導かれる。彼女のこの裸婦像も重要な道具立てになる。というか、中村は全編脱ぎまくって偏執的な演出に貢献する。一方、彼らの住む街並みは台湾ロケで設えられた、昭和っぽい美術装置で、これも特筆すべきだろう。美術の中では、何と云っても鏡の頻出が記憶に残る。もっとも、中盤は緩い演出もある。特に靴屋の松浦祐也ら(商店主ら)に関する描き方が緩いと思う。
しかし、後半、そう「つむじ風」の場面辺りからは怒涛の展開になる。小さな子供たちの髄液売買、南の海岸とお城のような邸宅、これら南の場面が面白い!南からの帰りの車中で運転中の成田に中村がキスをする。これが部屋でのディープキスに転換してから始まる時空の錯綜には唖然とする。湖の側の草原にあるベッドでの交接。山小屋のような建物の中にいる左腕が溶けて外れる日本兵。野戦病院での成田と森田。陰毛を入れた小さな袋を渡す軍医の竹中。ピー屋の福子−中村は中国人のような喋り方をする。そして圧巻は戦場のカオスの描写だ。これを横移動の長回しで撮ったショットは凄いものだ。あるいは、人物が自動車に撥ねられて、吹っ飛んで水田に落ちる場面の反復にも驚くが、2回目にイナゴの大群まで盛り込む造型にも偏執的な執拗さを感じる。
また、本作にも、ニヤけさせられる細部が沢山ある。冒頭アバンタイトルだと、雷雨の中での女性−中西柚貴への金物の指摘も宜しいが、泥土についた陰茎の跡を挿入する感覚には苦笑する(原作にもあるのか?)。ベテラン営業マン−足立智充が親子でスキヤキを食べる場面の食器。「つむじ風」のシーンの中華風かぶりもの。南の浜辺に現れるロシア人(?)のフィン(足ひれ)。お城のような邸宅での、小さな女の子の通訳!多分、ユーモアということではこゝが一番だろう。あと、私は特に、女性の下着の時代考証がずっと気になった。全編、確たる時代設定があってないような作品だとは云え。ま、全編が夢みたいな映画(誰の夢?)なので、細かいことは気にしない方がいいとは云え。
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