[コメント] アット・ザ・ベンチ(2024/日)
そのカメラワークの徹底ぶりはいささかしつこく、演出意図としての“理屈”が透けてみえ鬱陶しくもある。以下、そのことを中心に書きますがネタバレを避けるので未見の方にはちょっと分かり難いかもしれません。
〔Ep.1〕脚本生方久美。ベンチで久しぶりに会った幼馴染みの女(広瀬すず)と男(仲野太賀)の会話劇。二人の会話は、それぞれ一人のみを収めたカットの切り返しで構成され、二人が同じフレームに納まることはない。ワンカットに納まるのはベンチに座った二人の後ろ姿を見せるときだけだ。そのショットでも二人の物理的な距離が必ず強調される。ちょっとしつこく理屈っぽい。
〔Ep.2〕脚本蓮見翔。同棲中の男(岡山天音)と女(岸井ゆきの)によるズレた会話のキャッチボール。Ep.1とは逆に、会話するとき二人は必ず同一フレーム内に映っている。やがて中年男(荒川良々)が会話に加わりフレーム内は三人になり、さらに話がこじれる。やはり理屈っぽいが、互いに言葉尻がかぶさるような発語のスピード感が面白い。
〔Ep.3〕脚本根本宗子。開巻早々から、姉(今田美桜)と妹(森七菜)の噛み合わない思いと距離が、文字通り互いに動き回ることで距離が詰まらな二人のアクションによって示される。そんな激しく堂々巡りする姉妹の苛立ちが、二人を追うように動き回る手持ちカメラの揺れる画面によって増幅される。意図わ分かるがちょっとしつこい。
〔Ep.4〕脚本奥山由之。不自然なアングルで捉えられた男(草なぎ剛)と女(吉岡里帆)の会話で始まる。やがてそれが人間界に向けられたベンチの視線だと分かり、さらにカメラアングルだけでなく二人の会話の不自然さが目立ち始める。監督の奥山が脚本を担当したこのエピソードでは作品全体のテーマなのだろう“思いと言葉”について言及される。蛇足だと思った。
〔Ep.5〕脚本生方久美。このエピソードはEp.1と同時に前編/後編として数年前に制作されネットTV(か何か、詳細は失念しました)で公開されたパートだそうです。そのせいかEp.2.3.4ほど特長立ったカメラ演出は見られず、良くも悪くもフツーの見栄えでした。
弟の奥山大史監督が情緒と手作り感を重視する演出家なら、兄の奥山由之監督はロジカルで技巧を凝らす演出家。そんな印象を持ちました。
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