[コメント] ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ(2024/米)
例えば、レディー・ガガ−リーが最初にソロで唄う曲が「ゲット・ハッピー」であり、本作においてもレディー・ガガにはジュディ・ガーランドの面影が重なること。トッド・フィリップスは『アリー/スター誕生』の製作者の一人でもあるのだ。
本作の歌唱シーンは、ほとんどホアキン・フェニックス−アーサーの妄想や夢、もしくは歌好きのリー及びアーサーの鼻歌という見せ方であり、突然、熱唱するような非現実感あふれる演出はほゞない。最初にアーサーが監獄の娯楽室みたいなところでテレビを見るシーン、ハービー・デント検事補−ハリー・ローティーが、テレビの中で、彼に死刑を求刑すると云っている場面だが、アーサーがいきなり「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ」を唄い出し、オフで(画面外から)オーケストレーションの劇伴が流れ出して驚かされる。しかし、彼の妄想であると種明かしされて閉じるので、あゝそういう趣向かと合点した。尚、フェニックスの歌は上手いものではないが、俳優らしい味のある歌唱だ。勿論、レディー・ガガの歌唱力には圧倒されるし、そういう意味で非現実的だが、それはアーサーの妄想の中の彼女だけだ。あと、こういう映画を見ると私はついつい昔のMGM作品のような大掛かりなプロダクションナンバーを見せてくれないか期待してしまうのだが、やはり無い物ねだりと云うべきだろう。
また、全体に医療刑務所内の造型が良いと思う。開巻のカトゥーン短編がスタンダードサイズで、刑務所内に繋がれてシネスコサイズになる映画だが、精神鑑定の場面の記録映像の体(てい)で、モノクロのスダンダートサイズよりもスクエアなアスペクト比が使われて、その後、夜の監房ドアの覗き穴から映したアーサーの画面が、大きな黒い縁取りと小さな覗き穴という、さらに小さな画面になる、こういった見せ方にも感心した。看守の一人をブレンダン・グリーソンが務めているのも大きい。『バンド・ワゴン』鑑賞会と上映中に始まる騒動を描いたシーケンスあたりまでがいいと思う。公判が始まると、テンションが途切れてしまった感覚がある。検事側のデントの造型が、思いの外、弱いのもその要因だ。
尚、アーサーの帰結については、中盤終盤になるに従って、おおかた予想がつくものだろう。プロットに深くからまない人物をチラチラと見せておく演出はイヤらしいし、最後に謎を残すスクリプトも意地汚いと思うが、帰結自体は潔いもので、私の好みだ。さらなる続編(3作目)なんか作られないことを希望する。
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