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[コメント] 化け猫あんずちゃん(2024/日=仏)

山下敦弘いまおかしんじ!ウヒャヒャと逸る心と真相を隠し、私事だが初めて家族総出で洗礼のために劇場に足を運んだのである。結果はかなり好評だったのだが、私個人としては「洗礼」の意味での狙いは外したかもしれない。要はヘンだがヌルいトトロ+クレしん+湯浅正明という受け止め方以上でも以下でもなかったのだ。いや、その受け止めでも全然いいし、とても面白かったんだけど。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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もっとこの作り手ならではの子どもが未知の、スパイシー味が欲しかったのは否めない。例えば、詳細を見せないにしても私ならおとんは生きて帰さない。あるいはそこはゆずっても半殺し状態のおとんとおかんを絡ませて何か生み出したいと思う。あるいは絡ませないのも滋味かもしれないが、それならそのようにしょっぱく明示すべきだし「相変わらずバカね」くらいはあってもいいんじゃないかとは思ったのだ。おかんの「覚悟」もいまいち伝わりにくい。

しかし剣呑過ぎて原恵一化すのも×だし、あんずちゃんというキャラクターを使う以上はこのへんがちょうど良いという思いも(原作未読)。「表と裏」という主題は徹底されているし、何より地獄のおかんの「この味、覚えておかなきゃ」には参った。タナトスに向かうかりんちゃんの志向と対比的に場違いで濃厚な「エロス」(エッチという意味ではない)が映える台詞と所作であり、端的に無二のイメージに感動した。こういった作家的突出があれば、それでいい。連れがこういった場面で何かを感じ取ってくれたら良かったのだが。

あんずちゃんは素晴らしい。アニメ表現としてはずっと眺めていたいレベルで、一挙手一投足、耳の動き、瞳の動き、眉間の皺、ヒゲの角度、猫背具合から何から何までとても楽しい。森山未來の演技も最高で、貧乏神を見かけた時の「あ。」と呟く微妙なテンションなど、いちいちおかしかった。ところで、彼は不死身であるという保証はどこにもなく、ただ「死ににくいだけ」なのではないか、死へのゆるやかなモラトリアムにいるだけなのではないか、ということを思った。かりんちゃんとの出会いを通じてそれを悟り、今更ながら少し大人にでもなったかのようなラストカットの微笑みが、それまでの「ニャハハ」という屈託なさと対比されて切なかった。それでも現世とあの世のあわいでニャハハと笑う困難で高潔な誇り高さを彼は持ち続けるだろう。見た目どおりのユルさ、ダメさの裏に優しさと誇り高さが見え隠れする、実は全然ダメではない、とても好きなキャラクターでした。

(評価:★4)

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