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[コメント] ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ(2023/米)

昔のユニバーサルロゴ(Rレイティング表示及びミラマックスロゴなども)。溶明する前に指揮者の声が聞こえ、溶明すると男性ばかりの聖歌隊(クワイヤボーイズ)。大好きな賛美歌「あゝベツレヘムよ」を唄い出す。あゝクリスマスの映画だ、と思う。
ゑぎ

 雪の中の建物。徐々に高校(バートン高という男子校)を舞台とすることが分かってくる。実は、本作も事前知識を全く仕入れずに見たのだが、もうこの冒頭の時点で、1970年代映画のルック、特に『ペーパーチェイス』と『さらば冬のかもめ』を思い起こす(いずれもマイケル・チャップマンがたずさわった映画。『ペーパーチェイス』は撮影助手だったと思うが)。見終わって、ネット上を調べると、ペインのインタビュー記事で『さらば冬のかもめ』に言及しているし、他サイトのレビューでも引き合いに出されている記事が多く目につき、さもありなんと思う(と同時に自分の平凡さも思い知る)。

 さて、本作は、私が見たペイン作品の中でも(未見作も多いのですが)、最高と思える出来栄えだ。調べると、デジタル撮影した後に、ポスプロで仕上げたようだが、なんて見事なマイケル・チャップマン・ルック(という言葉を勝手にでっち上げるが)の再現だろう。こんなことができるのなら、今や失敗した照明をポスプロでいくらでも修正可能なのかも知れない。しかし、実にいい触感の画面じゃないか。また、本作のルックの心地よさには、雪の質量も大いに貢献しているだろう。

 そして演者だ。ポール・ジアマッティも、私が今まで見てきた中で一番好きだ。彼の斜視の造型はコンタクトレンズのようだが(ポスプロの修正ではない)、その扱いには問題があるという気もするが(他にも体臭に関する部分なんかも)、しかし、斜視をこのように機能させた映画を他に知らない。また、度々彼が使う「バートン・メン」(バートン高の特性を一言で表した言葉)の多義性の面白さも出色の出来だろう。あと、オスカー・ウィナーのダヴァイン・ジョイ・ランドルフの存在も勿論宜しいが、最終的に一人だけ居残りになる学生・タリ―役のドミニク・セッサがいい。本作が映画初出演のようだが、久々に新たなスターが生まれる瞬間に立ち会ったという感慨をもたらせてくれた。

 本作の後半はニューイングランドからボストンへのロードムービーでもある。その帰路のレストラン駐車場で、3人がチェリージュビリーを食べようとするシーンの俯瞰ショットのなんとも云えない可愛らしさ。あるいは、1971年へのカウントダウンを皆で祝うシーンの、窓外から撮ったショットの暖かさ。全編に亘って数々のクリスマスソングが流れるところも私の感傷をくすぐる。クリスマス映画として忘れないでいよう。

#序盤のタリー−セッサの科白で『女王陛下の007』への言及がある。ボストンの映画館でジアマッティとセッサが見る映画は『小さな巨人』。

(評価:★4)

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