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[コメント] 蛇の道(2024/仏=日=ベルギー)

ところどころ変にリアリティのある「なんかいや〜な夢見たよな」感。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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そう思うのはリベンジサスペンスとしてであれば肝心な部分に理屈が通ってないからだろう。サヨコは最初はほぼ全容は何も知らなかったのに終盤では何もかも知っているようだったという整合性の欠如が一番の要因だと思う。

自分の患者のアルベールをセラピーの一環と騙し組織へ復讐するよう仕向けて真犯人を追及していくプロセスで、アルベールが犯人と思い接触した人物から次々さらなる隠れた真相が明らかになっていくのだが、「そんな人物の話は聞いていない!」というサヨコの台詞や、「え?これマジでやべーヤツじゃん」と恐れるアルベールのリアクションはおそらく本物だろうし、サヨコは最初の容疑者のラヴァルの死体は怒りを露わに刃物でめった刺しするのに、ゲランの時にはそれを止めてしまう描写からも、最初は何も知らなかったけど徐々にこれが大掛かりな組織ぐるみの仕業という理解にいたったということで間違いないと思うのだが、最後のアジトに潜入するあたりでサヨコは自分の娘の動画やナレーションを仕込んだり、高い場所に現れてマウントをとってみたりと、自由にアジトの中を歩き回っている。途中から全容を知ってアルベールを使って組織の皆殺しを画策したっていうことなのだろうが、どのあたりで黒幕を知りアジトを知り仕込みをしたのかまったくわからないし、そもそもそんなことができる時間がいつあったのかも疑問だし、リモートで会話をしている夫を「あなかたが私の娘を売ったのね」と突然言い出すのも、会話の流れでひらめいたのか、もうだいぶ前からわかっていたのかも曖昧で根拠が提示されないので、徒手空拳のリベンジものとしてはそこのディテールが楽しめない。

そのディテールの欠如とアジトでの銃撃戦のいい意味でヒリヒリしないしょぼさが悪夢でも見ているのかしらという感覚に陥らせる。現在の黒幕がアルベールの妻で、その妻は財団の創始者からその役割を引き継いだが自分には難しい、その創始者は悪魔のようなカリスマ性があったから…とかいう台詞にも萎える。子どもを生きながら解剖する行為を組織ビジネスとして束ねたその黒幕のカリスマ性を見せてこそのリベンジサスペンスだろうに、それ見せないんだというのが夢のご都合主義的な展開(夢のストーリーはだいたいご都合主義である)を思わせるのだろう。

かといってこれをリアルなクライムサスペンスとして描いてもそれはそれで鬱でしょーもない話だし(8歳の子どもを生きながら解剖するなんていうアイディアは、サスペンスのネタとして軽々しく扱って欲しくない。マクガフィンであって欲しいという鑑賞側の生理があると思う)、吉村のエピソードの挿入の仕方などの独特性や、チャリで拷問部屋に通うとか、その際の強めの風とか、相変わらずタイルを撮らせるとうまいな、とか、結局そういう黒沢節を楽しむしかないような、どっちつかずな印象だった。

(評価:★3)

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