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[コメント] ゴジラxコング 新たなる帝国(2024/米)

古稀にして、どピンクで疾走。コロッセオのシーンには「おまえら人間ごときが、俺様を差し置いて戦争なんかしてんなよ!」という壮大なメッセージが……あるわけない?!
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







前作『ゴジラVSコング』は1962年以来の因縁という、単体の作品ないしはモンスターバースの物語を越えたアングルが介在していたので、一騎打ちが否応なく盛り上がる感覚があったのだが、続編ともなればそれも消えてしまい、「子供向け」というよりは「子供じみた」展開が、シリーズに惹かれない観客をますます置き去りにする作風となっている。

ゴジラに限らず、そのシリーズがファン以外の層を巻き込もうと思ったら、シリーズのお約束(ローカルルール)みたいな設定になるべく依拠しない、常識と社会通念に基づいて鑑賞することが可能な設定を用意する必要がある。その点うまいことやったら、まあアカデミー賞ぐらい火炎放射一閃ですなあ。

当モンスターバースシリーズも、実はドラマの『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』は、(ローカルルールはありつつも、くわえて途中いらんダレ場がありつつも)最後はあまり例を見ないストーリーで思いがけずドラマが盛り上がった。息子との二人一役もあって、カート・ラッセル晩年の代表作になったのではないか。テレビドラマという媒体に即してドラマ本編で訴求するべく、エモーションに訴えかけるシナリオの努力が見られたということなのだが、それに対して本作『ゴジラ×コング』はどうか?

人間のドラマを切り出したら、血のつながりのない母子のアレなんてとってつけたようなレベルだし、この点たまたま『−1.0』とかぶって旗色が悪い。あちらの演出がそこまで巧妙とも思わなかったのだけれど、少なくともこちらにくらべればしっかりしていた。こっちのはもう、「モスラや民とともに生きます、さようならおかあさんさようなら」でええやんか……ディズニーじゃないんだから、と思ってしまう。そしてほかには、しょぼい怪獣歯科医としょぼいDJのボンクラトークがあるのみなのだが、これは前回のボンクラずっこけ珍道中にくらべたら幾分ましだった気がしなくもない……まあ、そういうレベルだ。

ただ、アダム・ウィンガードはこれ、天然なのか、確信的にやっているのか判別つかないところがある。シリーズをふり返ると、ギャレス・エドワーズはやはり映画の演出家として一枚上手で、土埃の向こうにゴジラのシルエットをとらえるような灰色の色調によって設定の無理を押し通す確信犯ぶりがうかがえた。半面、『キング・オブ・モンスターズ』のマイケル・ドハティは、ローカルルールに依拠した物語の醸成が一般の感覚に訴求するというオタクの錯覚に基づいてやっていたように思う。終末的ヒロイズムに依拠したナイトシーンの暗い色調が中心だったのは、私のような平成VS世代のかしこぶったほうのオタクが「『VSビオランテ』のナイトシーンがよかったのに……」と思っていた(ゴジラはもはやナイトシーンでないと最低限のリアリティも醸成できないとビクビクしていた)感覚に近いのだが、登場人物の造形ともども箱庭的だった側面は否めない。一方、アダム・ウィンガードは、それともちがい、ひたすらカラフルで明るいし、この色調こそが世界興収を回復させたようにも思えてしまう。

モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』がうまいことこじつけたホロアースの設定は、本作においては言い訳できないお子様ランチに逆戻りしている。ただ、そこを突っ走るコングは絵面として開放的だし、無重力バトルは垢抜けている。『うる星やつら』かと思うようなスラップスティックは笑うしかない。このはっちゃけぶりがシリーズを無視したモチーフであるなら怒るところなのだけれど、端々にはシリーズの思い出、それもむしろ痛いほうの思い出が散りばめられており、笑顔で後ろ髪をむんずとつかんでくる。『三大怪獣 地球最大の決戦』を三十五回は見ている私なんぞはもう、たわむれるゴジラとコングをモスラが説得するくだりとか、ここだけで金払うわと思えてしまう。しょせん映画ファンである前に、特オタ、子供じみたゴジラ好きにすぎないのだ。

そしてこまったことには、これ海外でバカに売れているので、まだ続いちゃいそうなのだ。日本では、あんまり売れていないらしい。妙な逆転現象だ。介護的にのせてくれる親切なストーリーでないとのれないという国民性は私にもある一方で、そもそもアニメのキャラの純情しか信じられない(実写の嘘くさいのはもう一切ゴメンな)国民になったのだという気もする。とはいえ映画館に行って、ゴジラが二本、それも別の国で作られた作品が並行上映されている状況は、幼少期には考えられなかったことだ。動画配信サービスをつければシリーズがどーんと出てきて、これ子供のころ夢見た夢のテレビじゃないか。東宝のゴジコン、いい加減うまくやったよな……。

話がそれた。結論、本作は誰にもお勧めできない。チルディッシュといえばそれまでの作品で、シネスケ受けとか悪いだろうなと思ったし、そりゃそうですよね……実際、見た直後は私も「あかんやろ」と思いましたよ。ただ、その後じわったことも結構あって、ひとつはスカーキングの造形だ。見た直後に何より不満に思ったのは、何で敵がこんなしょぼいんだよ、という点だった。コングと並んでも、でかくはないし、細いし、赤毛で、はげてるし、せこい……たかが猿が、世界に氷河期をもたらすとかいう原始怪獣様に首輪つないでスイッチでビーッ……!

 ん……?

でかくはない、赤毛……中肉中背、血塗られた禿げ。取り巻きを奴隷扱いして、言うこと聞かなけりゃ平然と奈落に蹴り落とす。世界を破滅させるスイッチを握り締めて恫喝、脅迫しまくる、せこい猿山の王様が築こうとする、新たなる帝国って……

 ああっ!

そりゃあ共闘するだろ――シーモちゃんは解放して、独裁禿げは凍結させて粉砕するしかないだろ! 荒唐無稽な装いで大それたメッセージというのも、特撮らしいと言えば特撮らしい。

(評価:★4)

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