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[コメント] 標的(2021/日)

気に入らない記事を誤記と曲解でもって捏造とディスっても「信ずるに足る状況があれば名誉棄損に当たらない」という最高裁判決確定の記録。ひどい世の中になったものだと嘆息させられる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







1991年、植村氏は元慰安婦の記事を朝日に二本書く。92年、宮澤総理が慰安婦問題で韓国に謝罪、西岡力氏が事実誤認と批判記事を文芸春秋に書く。93年、慰安婦問題で「おわびと反省」の河野談話。95年、アジア女性基金。96年「新しい歴史教科書をつくる会」設立。97年、安倍晋三氏が「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」結成。映画はこの頃からテレビが慰安婦の企画が通らなくなったとの証言が収められている。98年、西岡氏は植村記事を捏造と正論に書く。2007年、櫻井よしこ氏のワシントンポスト意見広告。

2014年、週刊文春が「慰安婦捏造、朝日新聞社記者がお嬢様大学に」掲載。朝日新聞は社長辞任、吉田清治氏証言の記事を取り消し、植村の記事は一部訂正するも捏造は否定。その間、植村氏へのバッシングが過熱。映画は国会での稲田議員の「地に堕ちた日本の名誉を回復」せねばならないとの質疑が収められている。15年、植村氏が文芸春秋と西岡氏、櫻井氏と新潮社、ワック、ダイアモンド社を名誉棄損で提訴。2020年、ともに敗訴が確定。

植村氏に届いた嫌がらせの葉書が証拠物件として映されている。「売国奴」「韓国へ帰れ」が定番フレーズ。裁判では西岡・櫻井両氏の取材不足も晒され、判決はどれもふたりの誤記、曲解を認めているが、真実でなくても信ずるに足る状況があれば名誉棄損に当たらないという裁判所の論理が通り、記事によってバッシングを引き起こしたとは云えないと免責する判決に終わった(これは映画にはないが、安部氏は判決を受けて、植村氏の捏造が確定とフェイスブックに書き、植村氏の抗議で削除している由。このような「理解」が続いているだろう)。

植村氏の長女はネットで晒される脅迫を受け、犯人が特定され有罪になっている。脅迫の当人は裁かれたが、先導の罪は免責される結果となった。植村氏は吉田氏からの引用をしたことはないが混同して叩かれた。件の週刊文春には、彼の妻は韓国人で理研団体所属という嘘まで書かれていた。

朝日新聞は捏造を否定しているが、謝罪によってバッシングは激増した。北海道新聞も数日違いで同内容の記事を出していた、朝日だけが標的にされた。櫻井氏も朝日をターゲットにしたと語られる。バッシングは北星学園にも多数届き、ハングルが流暢な植村氏は姉妹校の韓国カトリック大学に転任している。

映画は彼の韓国での授業風景のほか、ナヌムの家を訪問する件もある。「草」という漫画が置いてある。日本人は肉を食べ、コリアンは草を食っていたという内容。元慰安婦は、十一や十二の小娘が連れていかれて何が判るだろう、刀で斬りつけられて強姦されたのだと語る。植村氏は慰安婦であろうと挺身隊であろうと、本人の意に反していたのだから本質は変わらないと語る。金学順氏(キム・ハクスン。慰安婦と初めて名乗り出た人)が清掃活動しているソウルのタプコル公園、慟哭の碑に数か国語で(日本語でも)「記憶されていない歴史は繰り返される」と記されている。

植村氏は阪神支局の赤報隊事件の被害者、小尻記者と同期で、墓参りの件がある。支える会のピアニスト崔善愛は、国への批判がテロルに晒されるのは戦時中も同じと語り、映画は1933年の国粋神風隊の、国賊朝日を葬れという発言を紹介している。ご存知の通り、朝日はその後、すっかり迎合的になったのだった。その他、弁護団の事務局長神原元氏やフリージャーナリストの臼杵敬子氏が登場する。

植村氏と監督の講演付で満員の会場で鑑賞。この判例により、気に入らない記事を捏造とディスってもお咎めなしということになってしまったと監督が語っていた。ひどい判決だったと思う。

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