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[コメント] 虹をつかむ男 南国奮斗篇(1997/日)

良い面も悪い面も、ありとあらゆる面が、山田洋次らしい面が、というよりももはや「刻印」ともいうべきそれが、フィルムの全編にわたって刻み込まれた、正真正銘の山田洋次の映画。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ナウシカ』と島の自然破壊だとか、1960年頃を日本映画の絶頂期とさらっと言っちゃうことだとか、人情の描き方だとか、職業訓練校の出し方だとか、家族の姿だとか、最先端テクノロジーの対極にあるような離島だとか、一つ一つの台詞からシーンから、良いのも悪いのも、そのすべてがいかにも山田洋次らしい。この意味で、これほど一本の映画に自分のすべてを投影してしまった例も珍しいのではないか。

そしてそういうすべてを飲み込んだ上で、なお特筆すべき、役者の技量が燦然と輝くシーンが二つある。一つは哀川翔を一蹴した田中邦衛の貫禄。この何気ないシーン、何気ない田中邦衛の仕草と言い回しにこめられた人生の重みは、哀川翔を蹴散らすに十分の迫力があった。

そしてもう一つが、素の歌で見るものを魅了した西田敏行のステージ。しかもほとんど生カラオケに近い状態から始めて、ぐいぐい見るものを引き込むあの力量。まるでステージ芸人かと見まがうほどの芸をもつ役者が、今の日本に果たして何人いるだろうか。

この役者の力量をぴたりと見極め、それを引き出す才覚に長けたのもいかにも山田洋次らしい。

同時に、これだけの、山田洋次の力量をもってしながらもなお、吉岡秀隆の序盤のへたれっぷりと後半のうざったさによる、辟易はいったい何なのか。

確かに『男はつらいよ』シリーズに1981年という子役のときから出演し続け、その枠を超えていろんな分野に進出した彼の役者としての才能を見出したと言ってよいとも思うが、同時に、前出の二人に比して際立ってその魅力を発揮できない彼の姿を見ると、実は吉岡秀隆は、山田洋次を象徴する役者と言ってもいいのでないだろうかとさえ思ってしまう。

(評価:★4)

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