[コメント] 辻占恋慕(2022/日)
ベタなメロドラマの芯を貫くのは大勢に流され傷を舐め合う者たちへの痛烈な批判。だがその批判もまた、自分の甘えを自覚した自傷でしかないという悲しみ。俺とあんたのどこが違うんだ、の涙ながらの叫びに男は絶句する。「うるせい馬鹿野郎」は自戒を込めたうめき声。
二人で夢を追ううちに男(大野大輔)は夢を追い詰めてしまう。そして男が見たものは夢の抜け殻に閉じ込めらた女(早織)の苦渋。夢を追っていたはずなのに、気づけば現実に追い詰められていた二人。空回りというにはあまりにも切ない“よくある”男と女の物語。
場末のライブハウスから人気アイドルの端くれに成り上がった、かつての同志あずき(加藤玲奈)は言う。あのとき私はライブハウス歌手でも、アイドルでもなく、アイコンになろうと決めたの。周りに操られるのではなく周りを操る側になろうと。
二人の周りにいたのは誠実な奴。強がる奴。ちょっと嫌な奴。媚びる奴。みんな弱い奴ばかりだ。本当に悪い奴は出てこない。そしてみんな一生懸命なのです。きっとみんな好い奴なのだ。だからみんなも私も切ないのだ。
昨今、若手俳優起用して成り行きまかせの顛末を描く茫漠な恋愛映画が多い邦画界にあって、ロジカルな意志と無謀な凶器を隠し持たメロドラマでした。大野大輔監督の傑作です。
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