[コメント] ドント・ウォーリー・ダーリン(2022/米)
まずは、舞台となる隔絶したスモールタウンの造型、徹底した作り物っぽさの感覚がいい。家屋や自動車(ヴィンテージ・カー)、ファッション・スタイルは1960年代風で、仮想空間みたいだ。砂漠と山の上の無機質な建築物(本部)。度重なる反射物−鏡の活用。自宅のガラス窓。バレエ教室のミラー。本部の結界のような窓。また、サブリミナル効果をねらった短いショットの挿入がピューの混乱を表わすのに効果的だ。血液や瞳孔を模した?イメージのショット。あるいは女性ダンサーたちによるバスビー・バークレイ風幾何学的ダンスの俯瞰など。
ただし、怖さという意味では大して怖くない、限定的だと思った。ピューの夫−ハリー・スタイルズの上司を演じるクリス・パインやその妻−ジェンマ・チャンの強い造型は良いと思うが、例えば、赤いツナギの男たちは、怖さよりも滑稽さが勝っており、コントみたいと思いながら(ニヤケながら)見た。
また、フローレンス・ピューのルックスの痛々しさはどうだ。しかし、この点が本作の不条理世界の強化に奏功していることは疑いがないだろう。子供のような体型をしたピューが、翻弄される姿を見せられ続け、複雑な心境にならざるを得ないが、それが映画の画面を強化するのなら、映画として極めて倫理的であると私は思う。
あと、レイ・チャールズから始まって、ほとんど途切れなく流れるBGMのオールディーズについて、私はこれは過多だと感じられた。しかし、エンドロールの最初に流れるのが(劇中でも一度流れていたが)、ベニー・グッドマン+ペギー・リーの心地よいボーカル「Where or When」で、映像はカラーバージョンでのバークレイ風幾何学ダンスなのだ。これはワタクシ的にはポイント高かった。つい最近、『青春一座』(1939年のバークレイ監督作)を見て、この歌を聞いたばかりだから、という理由も大きいが、正直、このエンドロールが一番感激した。
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