[コメント] 復活の日(1980/日)
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この危機感と重厚さはハリウッドに引けをとらないどころか、むしろ凌駕しているといっても過言ではなさそうだ。
まかり間違っても深作欣二監督は職人肌ではないし、ましてやSFスペクタクル作品でメガホンを取るなど始めてだ。原作を高校生の時に読んで衝撃を受けた自分にとっては、そんな深作が世界規模のスケールを持つ本作をどう調理するのかが気になっていた。確かに、見せ場の作り方をイマイチ掴みあぐねている感がある。
既にその点を挙げている人も多いが、ある意味見世物的ではあるが、人類が病原体に犯されてパニックとなる状況をどれだけ見せてくれるか、という場面は間違いなく“見せ場”なのだ。現に、小松左京の原作では、イタリアかぜがどれだけの影響を及ぼしたかを恐ろしいほど綿密に描写している。覚えているだけでも、国鉄各線の間引き運転(それでも空席が出来るほど客がいない)、各種プロスポーツ競技の中止(選手が風邪で欠場)、学校は閉鎖され、経済活動はことごとく途絶える……。それだけの要素を含んでいるのが原作であった。だが映画ではどうかというと、メインとなっているのが人類滅亡後の南極、というところからしてウエイトの置き方が違う。パニック映画という面から本作を捕らえてしまうと、やはり食い付きが悪く物足りなさを感じてしまうのも事実だろう。
しかし、これをもってして本作を出来損ないと断定することは、余りにも安直過ぎる行為だ。例えパニックを掴みあぐねた深作でも、決して薄っぺらい映画にはしなかったのである。パニックが少ない分、僅か800人だけが残った南極の人類達の苦悩が嫌というほど描かれているのだから。南極連邦、貴重な存在となった女性、そして上陸せんとするソ連原潜。南極という限られた空間に地球上全ての人々が凝縮され、滅亡の瀬戸際の中で生き抜こうとする彼等の苦悩が、観ているこちらにもビンビンと伝わってくる。
そして、本作には“世界”というものがきちんと存在していたことに驚かされる。世界的危機を描いたハリウッド作品は、この辺が全くといっていいほど欠如している。『アルマゲドン』『ディープ・インパクト』『インデペンデンス・デイ』『ザ・コア』……危機に陥れるものは違えど、これらの映画に“世界”は存在していただろうか? いずれの場合も、世界は破滅絵図の舞台としてしか登場しておらず、最終的には全てアメリカが片を付けていたという点に、納得していない人間がいるのも事実である(無論自分もそうだ)。少なくとも『復活の日』には“世界”が存在し、それゆえの確執も描かれていた。ソ連の意向に従いたくないポーランド(この対立をここで生かすとは!)、対立するチリとアルゼンチン、彼等のケンカを拳銃で脅して止めるアメリカ。これが“世界”でなくてなんなのだろうか。
これだけの“世界”を、ハリウッドが描こうとしても描けない。なぜなら、彼等はアメリカが全て片を付けるという結末を望んでいるからであり、その為には世界など必要ではなく、自分達だけで出来るという過剰な自身があるからだ。だが本作ではそんなアメリカすら絶望に追い込ませ、逆に人類をさらに滅亡に導く手段すら持っていると断定している。天狗になっているハリウッドに、ここまで冷や水を浴びせかけた映画など他にあるか?
そういった意味も含めて、上手くいっている部分とそうでない部分がここまで明確な作品も珍しい。見せるところをもっと見せていたら、間違いなく★5になれた映画と思うのだが。
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