[コメント] 春の夢(1960/日)
発端はお屋敷に招き入れらえた焼き芋屋! キャラの立った人物たちがエキセントリックな言説を吐きながら、限定空間に入れ替わり立ち替わり現れて話がどんどん転りどこへ行きつくやら・・・身分、労使、貧富、恋愛の合理とナンセンスが巧みに絡み合う見事な群像劇。
公開は1960年1月3日。世は言わずと知れた60年安保闘争に端を発した左右激突の時代。ことの発端が、内心バラバラな資本家家族(小沢栄太郎/東山千栄子)の豪邸に、下働きの酒屋の兄ちゃん(小坂一也)やお手伝いさん(十朱幸代/中村メイコ)たちによって招き入れられた下層労働者の焼き芋屋の爺さん(笠智衆)とは・・・なんだか安保の時代を象徴したアイロニーにも見えました。エンタメをエンタメで終わらせない木下恵介の矜持の証しでしょうか。
資本家一族の男たちが右往左往−長男(河津裕介)は頭でっかち。社長は途中で別荘に逃避−するのに比べて、お手伝いさんから、一族の娘たち(岡田茉莉子/丹阿弥谷津子)、会社関係者(久我美子/荒木道子)、アパートの住人(賀原夏子/藤山陽子/菅井きん)まで、女たちはみんな明確な意志を持ち、それを貫こうとします。意志の成否や善悪は別にして彼女たちはみな人間的で魅力的です。
私は、隠れた狂言回しの役を務めて身分、労使、貧富、恋愛の間を取り持ちながら心揺れ動く知的でキュートなメガネ女子、久我美子さんに心射抜かれました。
で、そんな女性たち全員に資本家一家の影のボス(東山千栄子)によって、それぞれの“春の夢”がプレゼンされるわけですね。デモ隊がスクリーンのなかで気勢を上げるロマンチックコメディ・・・騒然と混沌のなかに次の夢の萌芽を匂わせる1960年ならではの“粋”なエンタメ映画でした。
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