コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 三度目の殺人(2017/日)

ピンと張りつめた温度の低い画面。それは事件の高揚の反動のようだ。“生れてこなかった方が良い人間もいる”“誰を裁くのかを、誰が決めるのか”“ここでは誰も本当のことを言わない”“あなたはただの器なのか”そんな呪詛が我々を常識のらち外へと導いていく。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







端から善悪や真実の追究など眼中になく“真実とは何か”などという、手あかのついた哲学もどきの話しをするつもりは是枝裕和にはなさそうだ。蛇足だが、当然、真犯人は誰なのかなどという「答え」は是枝の関心の範疇にない。

重要なことは、これは法廷ではなく接見室での出来事を核に据えた話しだということだ。制度や人の社会的公平性を問う法廷劇ではなく、ひたすら内側へ閉じていくことで制度と人の相容れなさを提示する密室の心理劇なのだ。争ったり、裁いたり、裁かれたるする以前の問題(話し)なのだ。

核心は、自分は人を殺めたかもしれないとほのめかす三隅(役所広司)が、一貫して、争うことも、裁かれることも「拒絶」しているところだ。この作品の凄味は、法制度の建てつけや運用の矛盾ではなく、物事の正しいありかたを規定する道理(制度)と、人が心地よく生きるための感情(倫理)の間に存在する避けられない違和を、強引かつ巧みにあぶり出したところにあるのだ。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)セント[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。