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[コメント] オールド・ジョイ(2006/米)

車で山へ向かう二人は途中で道に迷う。目的地にたどり着こうと努力する男と、目的地に着くことが「目的」かどうか疑わしい男。ことさら「危さ」を煽る演出はなされないが、旧交を手繰る二人の微妙な所作や言動から「危うく曖昧なズレ」のようなものが伝わってくる。
ぽんしゅう

もうすぐ子供が生まれる男マーク(ダニエル・ロンドン)は、この小旅行をきっかけにして自分の心構えを“変えようと”しているようだ。だから目的地に到達することは必須の目的なのだ。一方、出来るだけ“変わらず”にいたい男カート(ウィル・オールダム)にとって目的地は他者を巻き込む「口実」であって、どうしても達しなければならない目的ではないのだろう。

実はこの二人、心の奥底で出来ることなら「変わりたくない」という共通の不安を共有しているのだ。本当は変りたくない男たちの、変ろうとする意識と変えたくない意識が起こす微妙な摩擦。それが二人が醸す「危さ」の正体のような気がする。

そんな二人は車を降りて徒歩で山中に分け入った途端、何かに憑かれたように黙々と目的の温泉地へ向う。彼らと現実世界(俗世)を繋ぎ止めていた「何か」が断たれたのだ。カーラジオから流れていた政情批判を繰り返す放送。あの放送が、人里離れた山のなかで、彼らと現実世界(俗世)を繋いでいた最後の回路だったのだ。上手い演出だと思う。

ケリー・ライカート監督作を4本続けて観た。処女作『リバー・オブ・グラス』(94)の舞台は合衆国の東南の隅っこマイアミだった。第二作目の本作『オールド・ジョイ』の舞台は、そのマイアミからアメリカ大陸の対角線上の真逆、西北の隅っこのオークランドだ。以降の監督作『ウェンディ&ルーシー』と『ミークス・カットオフ』もオークランド近辺が舞台だった。偶然ではなさそうな気がします。ケリー・ライカートはマイアミ生まれだそうだ。

(評価:★3)

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