[コメント] ハッピーアワー(2015/日)
冒頭はケーブルカー。トンネルに入って行く。『恋恋風塵』のオープニングを思い出すが、トンネルのモチーフは、この後何度も出て来る。例えば、純が一人乗った有馬温泉からのバスのシーン。トンネルに入って、車内が赤い照明に変化する。あるいは、フェリー乗り場の通路。あと、画面では示されないが、朗読される小説の中の描写でも、トンネルが出て来るし、あかりと鵜飼が訪れるクラブの狭い通路も、うがってみれば、トンネルのようと云えるだろう。
また本作は、4人以上の座位での会話シーンが多いが、その切り返しがとてもスリリングなのだ。まずは冒頭のケーブルカーに続く、山上の東屋の場面。4人の女性の2対2(ツーショット)の切り返しが見せる。なんと端正なカッティング、と思わせる。そして、中盤のワークショップ(「重心に聞く」)が終わった後の打ち上げシーン。こゝも10人程度の会食・会話場面を、切り返しと視線の演出で見せ切るが、途中で、いきなりの正面カメラ目線切り返しが挿入されるのだ。この、純と鵜飼の視線の演出のスリリングなこと!以降、有馬温泉での女性4人の麻雀シーンや、朗読会後の打ち上げの会食場面などでも、こゝぞというときの正面カメラ目線切り返しにショックを受け続けることになる。
ショックということで云えば、後半にはフィルムノワールやホラーのテイストも加味される。上にも書いた、あかりと鵜飼のクラブの場面は、ほとんど、ノワールの画面だし、芙美が部屋で倒れて、目を開けたまゝ動かないカットは、全くホラーの演出じゃないか。このあたりは違和感もゼロではないが、緊張感維持には奏功していると云うべきだろう。
そして、4人の女性たちが、ほとんど過不足なく全員が主役と感じられるよう良いシーンが与えられ、存在感を示している点も賞賛に値すると思う。後半ほとんど登場しない純が、一人だけ出番は少ないのだが、彼女がプロットを駆動し、他の登場人物が純を思っている、純のことについて話している、という展開になる。なので、純の存在感も増幅する。出番は少ないながら、有馬からのバスの場面、裁判シーン、家に入れた夫との対峙、フェリーでの別れなど、純には印象に残る場面が多いこともあり、その存在感が、観客の記憶に残るように周到に作られている。
その他、詳述はしないが、ワークショップや純の家でのローキーの照明、二つの懐妊とその当事者の交錯、主要人物全員のキャラ造型の多重性(特に純の夫!)など、誉めるべき点は多々あると思うが、それらも含めて、長尺をダレさせず、緊張感を途切れさせずに見せる、ということに結実していると思う。
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