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[コメント] バンコクナイツ(2016/日=仏=タイ)

マジで撮られた「越境するアジア映画」
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「越境するアジア映画」などという惹句をこの二、三十年、何度も見せられてきたが、その実、アジアを映した日本映画はとても少ない(戦前の植民地映画のトラウマじゃないかと思う)。あっても観光か仕事での逗留という設定が並ぶ。そんななか、マジで主人公の越境・定住を志向した本作は劇映画として企画自体が画期的、やっと撮られるべき映画が撮られたという充実感がある。

日本の売春ツアーの実態が連綿と綴られる。「行ってらっしゃい、エイズに気をつけて」なる旧厚生省のポスターが顰蹙を買ったのはもう四半世紀も前だが止むことはない。料金は六本木の20分の1だって。これらを茶化し続けたうえに、作者はなんと、その向こうに越境の希望を見ている。この生々しくも具体的な作戦は賞賛に値する。富田克也が買春男の背中を想像の銃で狙う件でその意図は完結している。

タイは現在も軍政下にあることを踏まえねばならない(司法クーデターなどというとんでもない事件もあった)。この下らない国から国への越境は国民単位でなされることはないだろう。スベンジャ・ポンコンの故郷で連絡員の亡霊と語らう件がとりわけ優れている。欧米人の自虐と併せて、土地の重層的な記憶が炙り出される。観るべきドキュメンタリーが劇映画の手法で捉えられている。

ただ、エンドタイトルのNG集は駄目だろう。アイドル映画でもあるまいにという創作への緊張感欠如も困るが、さらにいけないのはスベンジャ・ポンコンを仏教寺院で祈らせていること。彼女が少数民族であるという劇中の設定が訳判らなくなっている。あと、日本人男優たちの滑舌の悪さも酷いが、まあ予算がなかったのだろう。もっといい環境で撮らせてあげたいものだ。クラウドファンディングには参加せねばならない。

共産ゲリラと間違われる集団との邂逅の断片が印象に残る。ベトナム戦争で荒地に空いた穴の描写が言葉を失わせる。今度は彼等を詳述してほしい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)moot ぽんしゅう[*]

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