[コメント] 愛は降る星のかなたに(1956/日)
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ということで、思想信条が殆ど語られないのが背骨を欠いていて物足りない。森雅之演じる尾崎秀美は、ゾルゲにほとんどハメられた(知らぬ間にコミンテルンの名簿に載せられていた)のだが、226など尾崎の嫌いな軍部の伸長を目の当たりにして、対抗上やむを得ず手を組んだ、という描き方。
尾崎は近衛首相のブレーンで、近衛は軍部相手に何もできずに議会政治の無能を晒した人なのだから、近衛のブレーンだって大した人ではなかろうとしか私は思わない。でもせっかくだから、いつか原作も読んでみたい、という気にはさせられた。そしたら映画の感想もかわるだろうか。あと、ゾルゲとの仲介者である金子信雄は当然のように拷問されているが、何で森は拷問されずにラブレターを百以上も書き連ねているのだろうか、疑問が残った。
山根寿子の妻は常識的な反応しかしない造形で、あんまり印象に残らない。「あの人が国を売るなんて信じられない」という逮捕直後の感想から、どう心境は変化したのだろうか判らなかった。一方、尾崎の弟須藤孝は印象深い。兄のスパイ発覚を受けて失地挽回とばかりに軍隊を志願して片脚を失い、兄の勧めで渡った満州でソ連軍に殺される。これも事実なんだろうか。何たる運命のイタズラだろう。
浅丘ルリ子は終盤にやっと活躍。チチとかハハとか云う呼び方は知的障碍の造形なのだろうか。ラス前の山根との二人乗りのブランコがいい。ラスト、墓石代わりの庭の梅の木みて「好き勝手して死んじゃった」という総括も感慨がある。彼女の代わりに森の正義にヨロメク秘書の高田敏江が大活躍。彼女との関係を死後も納得できない妻の山根というわだかまりは、映画はうまく昇華できずに残ってしまった印象。中国人の天本英世は何か唐突。
ゾルゲのスパイの成果は、日本に対ソ戦の意志がないのを確認できたので、兵力を東部戦線に集結し、対独戦勝利に結びつけることができた、というもの。『スパイ・ゾルゲ 真珠湾前夜』では無線活動の成果になっていたがどうなんだろう。私的ベストショットは森と高田が軍部伸長に怯える窓の下で大々的に繰り広げられる武漢三鎮陥落の提灯行列で、ほんの数秒映すだけなのにびっくりするほど豪華。
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