[コメント] 沈黙 -サイレンス-(2016/米)
もとより、マーティン・スコセッシは華麗なテクニックの持ち主だが、本作で見せる才気には一部違和感を覚える。特に、私にはパンニングの品の無さが目に付く。それは、題材に対する技巧の選択の整合という意味での違和感なのだ。
例えば、開巻の拷問シーン、雲仙の場面で使われるパンニングにおいて、既に不遜な感覚を持つ。あるいは、中盤、ジイサマ−笈田ヨシらが捕縛された後、霧の中から、縄に繋がれた人達が登場する審美的な待ちポジのカットがあるが、あゝスコセッシらしい凝った撮影だ、と思っていると、カット尻で不用意にパンニングするので、がっかりしてしまった。こゝは最後までどっしりとフィクスでしょう、という感覚。つまり、パンニングは(ズーミングもだが)、その速度にもよるが、概して軽い。軽快さを醸し出す。
さて、なんだかケチをつけるところから書き始めてしまったが、実は、最近のスコセッシの中では、かなり好きな部類です。それはやっぱりキチジロー−窪塚洋介の扱いの面白さに拠っているところが大きい。冒頭からエンディングに至るまで、要所でプロットを転ばせる重要な役割を負っている良い役だ。のみならず、映画全体を通じて、人間の弱さと寛容さ、あるいは、真実と形式といったテーマを浮かび上がらせる(それを駆動する)最も端的なキャラクターが彼だろう。いや、もっと単純に性懲りもない造型がアイロニカルでとても面白い。あと、イッセー尾形の怪演。
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