[コメント] 雪の轍(2014/トルコ=仏=独)
映画を見終った人むけのレビューです。
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物語は「金持ちが天国に入るのは駱駝が針の穴を通るより難しい」という新約聖書の言葉がなぞられる。イスラム教でこれをどう解されるのか私は知らない(新約も聖典であるが)。イスラムでは喜捨は重要とされているはずだけど、妻の借家人への喜捨は散々な結果となる訳で、ここに批評を読み取るべきなのも知れない。これらは大いに引っかかるところで、本作を観るうえで肝心なことだろう。知らずに書いているから的を得ていないのかも知れない。
客からHPの指摘受けただけで買った野性の白馬をアイドゥンは、不毛な議論の翌朝野に放してしまう。クライマックスの狩りで彼はこの白馬に再開することになるだろう、そして芥川龍之介の「蜘蛛の糸」みたいに自分のわずかに残った良心に出会うだろう。そういうクライマックスかいな、という読みは外されてしまった(これじゃ常識的すぎるか)。
代わりに出会うのは自分で撃ち殺した野兎。その一日前、彼は線路際に横たわる死んだ野良犬を見て首都行を止める。野兎と野良犬は相似形をなしているだろう。これらは何の隠喩なのかと思いきや、収束に至って妻のことなのだと知れる。まるでアイドゥンは借家人への失敗で妻が打ちひしがれているのを知っているかのように家に戻る。妻への謝罪を延々と独白して映画は終わる。
それがどうした、という感想しか出てこない。まさかこれで夫婦仲が戻る訳もなく、今後もこの夫婦が上手くいかないのは必至であろう。中盤の皮肉の投げつけ合いのもの凄さがラストの転換を霞ませているのだから巧くいかないものだ。この生温い収束は実に余計。シニカルが徹底された方が生産的だったのにと思う。
途中であの妹がいなくなるのも拍子抜け。「悪を赦せば相手は恥じ入るのだ」という彼女の主張の顚末をぜひ観せてほしかったのだが。ロケ先は美しいが画は平凡。
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