[コメント] オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分(2013/英=米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
一風変わったトム・ハーディの一人芝居で、一人の男の勘違い自己陶酔の、始まりから高揚、覚醒までが結構ドラマチックに描かれていて、なかなか面白かった。
それに最後、勘違い男にはある意味、お似合いのそこそこの幸せというか救いを感じさせる終わり方は良い。
以下は「そんなこと言ってたら映画を楽しめないよ」と言われる野暮を承知で、観終わってつらつら考えてたこと。
観終わった当初はトム・ハーディの達者な一人芝居(ただ高速走行中にハンドルにあんな触り方してたら事故するだろ、というのはあったが)にも関わらず☆3だった。それは一つの事が気にかかったからだ。
本作は、過去の過ちのツケが急に回ってきた、仕事で重大な責任を果たすべき時、一家団欒が最高に盛り上がるサッカー観戦、の3つが同時に発生して、結局自らの信念に従って過去の過ちに誠実に向かい合う事を決断した男、の物語のようでもある。
ただ過去の過ちは、予定より2ヶ月早いという突発的な出来事なので仕方ないにしても、仕事で重大な責任を果たすべき時と、一家そろってサッカー観戦が重なるってのは予めわかっていたことではないの?と思った。仕事の方はそれこそ欧州最大の規模の事らしいから相当前から入念に準備されその日時も決まっていただろう。サッカーの試合にしてもトーナメントだとしても一週間くらい前には決まっていたはずだ。
だからこの夜、最初から男は仕事か、一家そろってサッカー観戦かのどちらかを選択せざる得なかったのではないかと思ったのだ。実際、サッカー試合が始まってからも男は自分の代わりに部下にポンプの点検、交通整理の最終確認、現場の直接確認、をやらせているし、後の二つはサッカー試合の時間帯にどうしてもやっておかなければならない事のように思える。
この点が引っかかって都合のいい話のように見えたのだ。だがもうちょっとだけ、考えてみた。
ひょっとしたら男は、良き仕事人であり良き夫であり良き父であろうとして、仕事と家族そろってサッカー観戦を両立できると判断したのだろう。確かに翌早朝から自分でなければ出来ない重大な仕事が始まるが、その前段階の準備、ポンプ点検、交通整理の最終確認、現場直接確認の三つは夜に現場に残る部下に任せて、自分は自宅で家族そろってサッカー観戦に盛り上がり、翌早朝、ひょっとしたら朝の4時くらいには現場に入りばっちりやるつもりだったのかもしれない。
せいぜい、サッカー観戦の間に部下に念のため2、3回、電話を入れておけばいいだろうくらいに考えていたのだろうし、またそれだけでいいように自分も抜かりなくやったつもりだったのだろう。
ところが「現実」はそう上手くいかなかった。過去の過ち云々が仮に無かったとしても、ポンプ点検は問題なくても交通整理の最終確認では思わぬ役所とのすれ違いがおきており、部下に任せておけず自ら直接、役人にへりくだって頭を下げながら電話をすることになる。おそらくTVの前でサッカー観戦に盛り上がる妻と息子たちを尻目に、いいところで電話番号をがさがさ探し回り何回も一人2階に上がり電話をかける羽目になっただろう。
さらに現場直接確認では型枠の手抜きが発覚!映画では部下を叱咤激励して走ってポーランド人監督のところまで行かせたが、もし家でサッカー観戦してたらどうしただろう。飲酒運転で捕まれば刑務所だと尻込む部下に悪態をつきながら、家族に「すまない、埋め合わせは必ずする」と言い残して、妻の冷たい視線とつまらなさそうな息子たちに送られて自ら車を飛ばしてポーランド人監督を捕まえたんじゃないかな。(彼もサッカー観戦でドイツビールを飲んでるが、何しろりんご酒1缶飲んでた部下を承知で車で行けといったのだから、自分でもいくだろうし、あるいはタクシーでも呼ぶだろう)
何しろ、良き仕事人であり良き夫であり良き父であろうとする男なのだ。その優先順位は仕事で、いよいよ自分にしか出来ない仕事を成功させるためなら、一家そろって楽しく盛り上がるサッカー観戦を中座することもやむを得ないのだ。
そしてそんな男だから、妻に浮気を告白し「今後のこともきちんと話し合いたい」と何回も説明したにもかかわらず、告白からほんの1時間程度で「もう帰ってくるな」ときっぱり拒絶されたのではないか。
妻はこの切羽詰った状況下で「台所で(靴についてきた)コンクリートを剥がした」と2回も愚痴り、仕事のための電話番号を調べろとぬけぬけと電話してきた男に、実は以前から鬱積していたものが一気に爆発して、決定的な事実を前に1時間で「もう終わりだ」と決断できたのではないだろうか。
なあんて考えてみると、「お、意外にこの映画は良く考えられてるんじゃないか」と思い直して☆4になった。野暮でもつらつら考えてみるのもまた、楽しいもんですね。
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