[コメント] 味園ユニバース(2015/日)
商業映画進出初期に押しつけられた「日本のカウリスマキ」という評を疎ましげに振り払うかのごとく監督作を重ねてきたはずの山下敦弘が、何とも恬然と『過去のない男』の翻案に取り組んでいる。かのパルムドッグ受賞作から犬を抹消した代償として、赤犬が音楽を奏で、渋谷すばるには犬の名が与えられる。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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山下にしては珍しく人物造型に失敗した感が強い。というのも、これでは記憶喪失者としての渋谷をあまりにも無垢の動物のように、すなわちいかにも記憶喪失者にふさわしく仕立てすぎではないか。バンドとの関係に限って云っても、彼は二階堂ふみの命を受けておずおずと代理ヴォーカリストとしてバンドに加わり、またバンドが拵えた楽曲に一ヴォーカリストとして歌声を乗せる。記憶喪失者にとって/対してはさもありなんという振舞いである。一方で『過去のない男』のマルック・ペルトラは記憶がないにもかかわらず、曲がりなりにも演奏のプロフェッショナルである救世軍バンドにロックンロールやブルーズを教授してみせるのだ(拾ったジュークボックスで!)。どちらが記憶喪失というモティーフおよびそれに伴う人物造型を豊かに膨らませているかは明白である。
あるいは、渋谷も二階堂も、そして映画自身も、彼の過去に囚われすぎていたと云ってもよい。それがために得られた「『ラブストーリーの自覚を欠いた男』とのラブストーリー」という二階堂の切なさは『過去のない男』との積極的な相違点だが、これも満足に実現したと認めるには彼女の造型が弱い。むろん、この役を演じていたのがカティ・オウティネンであったのならば話は別だが。
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