[コメント] ミンヨン 倍音の法則(2014/日)
「音の記憶」にこだわり続けた映像作家佐々木昭一郎の満を持しての初映画はミュージカルだった。川や母への想い、踏切の出会い、国境や現実と幻想の越境という佐々木独特のモチーフに加えられた家族と戦争の記憶を浄化させるために「歌」の挿入は必然だ。
佐々木作品の80年代の常連女優中尾幸世は、表情の起伏は少なく、いつも囁くように言葉やメロディを口にした。ミンヨンは違う。モーツアルトの旋律から始まり、アメリカ民謡、文部省唱歌、通俗歌謡、はては大学応援歌を、ときにダンスのようなステップを交えなが純度の高い明るさで高らかに歌い上げる。
その歌曲群は、戦時中に佐々木少年一家をみまった理不尽の悲しみを懸命に封印しながら、佐々木昭一郎が現在に至った推進力の象徴としての「記憶の歌」なのだろう。だから映画は、すべての雑事を排除するようにミンヨンの大アップで始まり閉じられなければならず、その背景は抜けるような青空でなければならなっかたのだろう。
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