[コメント] クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん(2014/日)
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年ごとに随分出来が違い、良い時もあれば悪い時もあるという、安定しない作風の本シリーズ。その中で近年希に見る傑作となったのが本作である。少なくとも私にとって、この作品は原恵一の関わったシリーズ初期シリーズ以来では最も面白かった作品だった。
オープニングで映画内アニメーションのロボット大戦のシーンなんかは最高で、これだけでぐっと引き込まれてしまう。特に戦いの中でドリルを細かく解説してくれるなんて嬉しくなるような演出してくれる。ロボットアニメや特撮に対して並々ならぬこだわりを感じさせるこのシーン観ただけで居住まいを正したくらいに引き込まれた。
内容も、しんのすけの父ひろしを主人公とする骨太内容で、これが又良い。
脳天気な行動が魅力なしんのすけとは異なり、常識人で承認欲求が高め(つまり甘えん坊)なのに、家長であると踏ん張っているオーディナリーピープルの典型例として描かれる事が多いが、一旦個性を出すとなかなかに魅力的になるひろしの魅力が全開と言った具合。どれも身につまされるために笑えるし泣けるし、感情を揺り動かされる。
しかも本作は完全にひろしの思考をトレースしたコピー体が自分自身を知った辺りで、大変残酷な話へと向かって行く。ひろしが倍になったことで、ますます鬱陶しくも魅力が増していった。
ここで描かれるひろしは夫として、父としてのジェンダーロールだけでなく、この世界に居場所があるのかどうかという個人的なアイデンティティーの問題にも直面させられる。通常の生活ならば酒でも飲んで憂さ晴らしをするか、自分はどうせ駄目な人間だと開き直れば良い問題なのだが、有能で理想的なロボットの自分が目の前にいて、それと競わねばならなくなり、追い詰められ逃げ出せなくなる。
一方でロボットのひろしも、自分がコピーに過ぎないと知ってしまって以降は、この世界に留まるためには自分の有用性を周囲に証明し続けなければならなくなる。 自分の居場所を確保するために競う二人はコミカルだが、自分自身を証明するというのはかなり厳しい物語ともなる。
流石にこども向けの作品なので、それをこれ以上は深めず、中盤以降は小物の敵を出すことでうやむやにしてしまっているが、その敵も自分の承認欲求を実現するためだけに行動する小心者。このくらいの小物さが本作では丁度良かったくらい。歌を使った攻撃も楽しい。
そしてラスト。これは泣ける。ひろしとロボひろしの決着の行方と、自分は何故ここにいるべきなのかということを逃げずに描いてくれたのは上手い作り。
しばらく『クレしん』の映画から遠ざかっている人にこそ観て欲しい、大人がはまる作品であろう。
尚、本作のひろし役の声優で2020年に亡くなった藤原啓治は本作が最後の主演作となった。そういう意味でも観ておくべき作品かと思われる。
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