[コメント] 007 スカイフォール(2012/英=米)
潜在意識を過去へと遡るボンドとMとシルヴァの時間旅行は、散りばめられた華やかなシリーズ作へオマージュと明暗を成し、冒頭の移動距離の長さを強調したチェイスは、終盤に配置された篭城戦のどん詰まり感と対峙してアクション映画のオーソドキシーを構成する。
人の心の奥に分け入り懊悩をあぶり出すことと、現実から飛翔して華麗なる夢を描くこと。逃げる者と追う者が繰り広げる速度(スピード)が生み出すサスペンスと、守る者と攻める者の正面衝突から生まれる破壊(バイオレンス)力。これは、古今東西の例を挙げるまでもなく、エンタテインメント映画の核となる要素だ。サム・メンデスは、これらの映画の基本要素をシンプルに配置して、実に手堅い(そこに、もの足りなさを感じる人もいるようだが)枠組みを作り出している。
そのいささか四角四面の枠組みのなかでハビエル・バルデムの怪演が、作品の「醜」を引き受けて異彩を放つ。金髪、異様に見開かれた目、曲がった鼻、突き出した口元。うなり声のように発せられる自信過剰な物言い。それは極上の「醜」となって四角四面の映画を汚す。
もうひとつ、作品の「美」を担うカタチとなった(もちろんベレニス・マーロウも美しいのですが)ロジャー・ディーキンスの画作りが心地良。距離や高低、スピードを体感させるメリハリ、輪郭が滲んだような幻想感を醸すスコットランドの原野。とりわけ上海の夜景に始まり、高層ビルでの狙撃犯との攻防を経て、マカオのカジノへと至るシークエンスの人工美に彩られた各シーンにはうっとりした。
こういうシンプルな形式主義的アクション映画、私は嫌いじゃない。
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