[コメント] ニューヨークの王様(1957/英)
チャップリンの映画に対する誠実な姿勢は健在でありながら達観の余裕に灰汁が抜けたSO-SO作品
齢68歳にしてこの反抗精神たるや旺盛な老人力としてどこか嬉しくもなるチャップリン晩年の作である。映画に自らを投影することで唯一無二の存在感を誇ってきたチャップリンであるが、本作では酸いも甘いも噛み分けてきた人生観による大局的な視点がしたたかに刻印されており、これまでの作品において、その志高き頑なな作劇によって弛緩のないテンションを可能としてきたところから一段下りたゆとりの中で繰り広げられた展開であった。子供のもつ直情的な一面を抽出する演出には天賦の才をいかんなく発揮するチャップリンであるが、ここでは愛息マイケルを起用して、自らの似姿に憐憫を見るかのような関係性がさらりと切ない。たしかにアメリカを追放される形となっての帰英後1作目ということで、アメリカの文明社会に対しての恨み節的なところがないでもない。その意味では老いてなお盛んな批評性というチャップリンの文化人としての矜持と、年寄りの冷や水的なギャップに思い当たり、ことさら時代感が浮き彫りになる作品であった。
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