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[コメント] 仁義なき戦い 広島死闘編(1973/日)

一作目よりも更に“仁義ない”描写が映えた作品です。公開当時は山中に自分自身に重ね合わせて泣いた人も多いでしょう。きっと。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
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 本作の面白い所は、主人公が広能では無くし、鉄砲玉の山中という人物を中心としたこと。この人物はなんでも広島戦争にあって「任侠の鏡」と称された人物らしいが、1作目であの終わり方をさせておいて、全く関係ない人物を主人公にするとはなんとも冒険心溢れた作品といえよう。これは実質的に一本目のヒットはストーリー云々よりもヤクザ世界の本当の“仁義なき”姿をあからさまに描いたからこそ。という事実をよく捉えていた結果だ。というか、これを冒険と思わせない所に深作監督の実力を垣間見させてくれる。

 事実、本作の描写は“仁義なき”という点においては1作目よりも突出している。主人公はしがないヒットマンで、仁義を感じることもなければ、巧く立ち回ろうともしていない。だからこそ利用され尽くされて最後は死を余儀なくされてしまう。なんとも哀しい役回りだし、本当に最後はなんの救いもないという、容赦ない描写が映えていた。

 一作目との対比で考えると、一作目が会社を統轄する側(あるいは中間管理職)だったのに対し、こちらはひたすら企業戦士の側で考えられていると言うことになるだろう。おだてられ、褒美を与えられ、使える内は徹底的に使われて、役に立たなくなるとあっという間に捨てられる。そんな人間を描写することで、共感を得たんじゃ無かろうか?描写は更に過激になったとは言え、一作目とはベクトルそのものが多少違っているのだ。この哀しみを怒りに転換することがモチベーションへとなり得た作品なのだ。それにもう一つ。ここには「戦争で死にきれなかった」事に対する後悔もありそうだ。山中が「任侠の鏡」たり得たのは、どんなに情けなくとも、戦争で死ぬことが出来たことが大きいのだから。

 暴力やエログロさは一作目を超えており、特にここでの千葉真一の描写は凄かった。サングラスを決して外さず、卑語連発(伏せ字さえなし)。常に苛ついて回り中の人間に噛みつき続ける。こりゃ千葉真一の独壇場だよ。それに北大路欣也演じる山中も、単なる被害者ではなく、自分の暴力で事態が変わることを願って虚しい暴力を繰り返すという、かなり過激な役回りをきちんと演じきっていた。それにやっぱり利用されっぱなしの薄幸な梶芽依子が絡むことで、暴力による非情さは更に際だつ。

 今回は傍観者の側に立った菅原文太だが、貧乏な広能組を舎弟達に支えられて細々と運営し、それをやっぱり金子信雄の山守に利用されてしまう描写が泣かせる。食の描写が好きな私としては、「こりゃ何の肉じゃあ!」だけで菅原文太を出した価値があると思えてしまう。その金子信雄もおいしい所をみんなかっさらってしまうというおいしい役柄だったのも良い。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)死ぬまでシネマ[*]

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