原作『告白』を見てから本編を見ると１０倍イケると聞いていた本作。しかし、おそらくこの映画の楽しみ方は、原作で描かれる面白さとは全然別のものであろう。最愛の娘を殺された女教師の復讐劇、人間の命についての洞察というテーマは、とりわけ新しい題材でもなく、その物語性には特段の面白さを見出すことはできないかもしれない。しかし、言われる通りの映像の美しさ、シーンのムード演出、トリッキーなインサートシーンなどは、中島哲也ここにありの力のあるパフォーマンスで、見る者の集中を喚起してやまない。本作では、映像作家のこだわりという悪魔的な粘力が見ものなのだ。ただワンカットの強度を生み出すためのボイスオーバーの使い方、役者選びによる顔面の力。どれもみな作家のこだわりに貫かれたスタイルの魅力が噴出して凄味がある。ただあえて言うならば、カットの瞬発的な美しさだけに頼って見えるところは、中島哲也のさらなる熟度を期待したくなる欠乏としてまだまだだ。彼のセンスによって切り取られる空間が、重さをもってその存在感を示したなら、驚異的な作家の誕生と晴れて言うことができるだろう。しかしながら、日本を代表する現代作家としての力量は充分に伺える佳作である。今後に期待したい。