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[コメント] 春との旅(2009/日)

私の読解力ではついていけない。何か見落としている?
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







仲代達矢が住まい探しで放浪するのだから「リア王」(『』)を連想しながら観ていた。仲代はリア王であり、最初に背信をみせる徳永えりはコーディリア兼同行する道化の役どころ(ピーターみたいな下手糞なら目も当てられないが、幸い上手い)。徳永は知恵者でもなく死にもしないからコーディリアではなかったが、孫と心を通わせるに至る仲代の感慨はリア王のものだろう。しかし人に甘え続ける自分の弱さを相対化できなかった点、リア王とは別物だった。

お祖父さんを甘やかすな、と物語のテーマを淡島千景が概括する。これが実に胸のすくような正論。しかしまだ中盤だから、ここからの脱線が描かれるだろうと思っていると、やはり徳永えり仲代達矢との同居を決心することになる。しかしこれが実に平凡。淡島の提言を覆すものを提示するに至っていない。ただべったり甘えているだけに見える。この旅で徳永は多くのものを学んだが、仲代はただ磨り減っただけだ。

年寄りに一般論などなくていいし、人それぞれの老い方があればよい。しかしこの仲代の生き方は嫌いだ。甘えに開き直る態度に何も学ぶところがない。『東京物語』の周吉ととみは凛として尾道に帰る。「俺は母ちゃんと嫁にだけは何してもいいんだ」とは『麻雀放浪記』の印象的な科白だが、そこには開き直りの痛快さがあった。本作はそういうニュアンスが何もないまま、ぽっくり逝ってしまう。ハードボイルドな演出といえばそうかも知れんが説明不足、「甘えの構造」を全うしたなあ、このほうがお孫さんのためには良かったねという感想しか浮かばなかった。

水那岐さんのレヴューを読んで感動した。そういうことなら、とてもいい作品であり、1点加点した。この作品、総じてあり得ないほど女ばかり善人である設定に違和感があるが、彼女らの仲代からの解放だと捉えれば筋が通ってもいる。しかしご本人も強引な読みだと書いておられるのだと思うが、私は本編からそのような力は読み取れなかった。自分の読解力を棚にあげて書いてしまうが、仲代は何も表出できていなかったと思う、ファン だし残念だけど(大滝秀治と交替したほうが味わいが増したのではないかとも思う)。

逆に説明過剰なところもあり、ホテル探しに放浪する件はとても印象的なはずなのだが、お祖父さん甘えているという先の淡島の説明にすっぽり収まってしまう展開なので白ける。顔アップの多い撮影は近年珍しく逆に新鮮なところがあり、淡島の遺作に相応しくてよかったが、人物を前後に配置して科白のない方をピンボケで通すのはひと昔前のテレビドラマみたいで酷い。最悪なのは全編に流れる湿気の多い音楽。あの音楽を全部消せば緊張感が増しただろうに。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)水那岐[*]

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