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[コメント] シャイアン(1964/米)

ジョン・フォードとしても苦しい苦しい映画であり、私とて本作を手放しで楽しむことはできない。ウィリアム・H・クロージアの切り取る絵画的な風景は依然として素晴らしいが、中盤から後半に亘ってテンションの持続を妨げるチグハグなシーケンスが目立つとも思う。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 ダッジ・シティのシーンなんてはっきり云って不要だろう。プロシア出身の砦の指揮官を演じるカール・マルデンのシーンも大芝居だ。ラスト近く、洞窟の前にエドワード・G・ロビンソンが登場する場面がスクリーン・プロセスなのにもがっかりする。

 しかしそれでもフォードが造型した細部の豊かさと悲痛な美しさには感動してしまうのも事実なのだ。ダッジ・シティのシーンなんて無いほうがスッキリするのは確かだが、ワイアット・アープにジェームズ・スチュワート、ドク・ホリディにアーサー・ケネディ、この二人と共にジョン・キャラダインがカードゲームをしている、というのはヤッパリ嬉しいキャスティングだし、牧童のケン・カーチスに絡まれたスチュワートがテーブル下からデリンジャーで相手の足を撃つ、なんて悪くないシーンだ。また、いつもは歌の上手い陽気な兄ちゃんばかりを演じているケン・カーチスが登場するなり無抵抗のインディアンを殺して頭の皮を剥ぐという非情な役であることもフォードのこの映画に対する決然たる姿勢が現れていて感慨深いではないか。勿論、ギルバート・ローランドリカルド・モンタルバンドロレス・デル・リオサル・ミネオ等インディアンに扮した俳優達によって体現されるフォード映画に一貫する「人間の誇り」の悲痛な表出には心震えずにはいられないし、そして何よりも、もう冒頭のインディアン居留地に立つ小さな小学校の佇まいとキャロル・ベイカーの白いエプロンを見ただけで胸締め付けられる感動を覚えてしまう。小学校の黒板を使ってリチャード・ウィドマークがキャロル・ベイカーに求婚するあの美しい演出を誰が忘れられよう。

 フォード最後の西部劇。全盛期の構築力や遺作『荒野の女たち』のような神がかった峻厳さが無いにしても、それでもフォード。美にして崇高である。

(評価:★4)

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