[コメント] 抱擁のかけら(2009/スペイン)
映画を見終った人むけのレビューです。
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静かに流れる物語の中に、細やかな愛情があふれ、描写の一つ一つが愛おしい。監督作品の特徴とも言える、様々な人が人を愛する形をバリエーションを変えて様々な切り口で語っている。比較的登場人物が多い本作では、その愛情もいくつもの描かれ方がある。
その愛の形は、狂おしいほどに互いを求め合う炎のようなものもあり、相手の心を無視して体を求めるものもあり。嫉妬となる愛もある。一方、実際の家族愛があれば、疑似的な家族としての互いを労る愛もあり、反転して憎しみにまでなってしまった愛もある。描写も様々で、男女の区別をあんまり付けないのも監督の特長かもしれない。比較的普通に男が男に愛を語る描写もあって、それが自然に見えてしまうのも面白い。
その中で抜きんでた存在感を持つのが何と言ってもペネロペ!この人も結構器用な役者だが、監督とのコンビになると、その存在感はとんでもないレベル。前作『ボルベール<帰郷>』よりは若い役なのだが、そう言う年齢差を難なく演技できてる。何よりこの人、未だ本気で色気の固まりみたいで、ついつい見とれてしまう。働く女の見本みたいなジュディット役のポルティージョも良い感じ。
ストーリーの良さを踏まえた上だが、本作を観て、監督作品に共通するテーマ性と言ったものに気がついた。
実に単純ではあるのだが、それは結局「赦し」と言う言葉で表せるだろう。これまでの監督作品の中心には常にこれがあり、そのために作品をきっちり締めていた。物語のクライマックスに「赦し」があるからこそのバランスであり、だからこそ余韻が良いのだ。
そしてこの「赦し」の描写は基本的には全て同じ。過去自分に対し肉体的精神的に苦しめた存在がおり、そのことを許せないまま時を過ごした人が主人公となってる。これは当事者の心の問題なので、対象となる人は生きていても死んでいても構わないのだが、自分の心の中でそれを整理する課程を映画で丹念に描いていく。
そう言うことがあるので、最初に登場した時点での主人公の生活はほんのちょっと歪んでいる。それも本作のように分かりやすいのもあるし、一見まともに見えながら、実は…と言うパターンもあるが、いずれにせよ、何故そんな歪みが出てしまったのか。その告白の部分が物語の中心となり、その上で「赦す」ことができた時に物語が終わる。概ねにおいて監督作品はほとんどこのパターン。徹底したポジティブな物語なのだ。
もちろんあくまでそれはパターンに過ぎず、内容がきっちり詰まってるし、監督ならではの物語で、最後は結局泣かされてしまう。
これからも監督の作品を楽しみに、上映したら必ず観るって事を繰り返していくんだろう。それがとても楽しみ。
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