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[コメント] 悪夢のエレベーター(2009/日)

流行のワンシチュエーションものコメディかと思ったのは侮りだった。一種の良質ミステリィといえるかも。瞠目すべきは、戦慄の佐津川愛美。本作でも岩下志麻くらいにはなっているが、いずれそれをはるかに超える大女優となる片鱗をみせた。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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とりわけエンディングの後の彼女の短いショットは完璧。ゾクゾクさせる不気味な魅力を見せつけてくれた。破滅するとわかっていても、それでも引きつけられるだけの妖しくも、鮮烈な印象を残した。

前段の最初のエレベーター内の場面は、浮気男も気づいたが、降りる人間と昇る人間が乗り合わせるのはやや不自然。だがそれ以上にヘンなのは、ジョギングに行くのにケータイは持っていないのにスプーンを持っていく男だろう。この男が怪しいと、残念ながらチンピラ風とゴスロリにも胡散臭さが生まれてくるから、誰かを嵌めようとしているのでは、となんとなくわかってしまう。

だから浮気男が嵌められたのが明らかになっても驚きは少ないし、何故そんなことをしているかという、中盤の種明かしはややだるい。

そこから男にだまされて自殺しようとする女を、「いつかもっとつらいことがある。今日のことなんかどうでもいいほどにつらいことがある」(この言い回しはちょっと新鮮で、なるほどと思わせるものがあって良かった)と、イイ話みたいにもっていこうとされても、「オイオイ、死体を二つも作っといていまさらイイ話にはならんだろ」と、やや幻滅。そうなると、所々に笑えるシーンはあったが、全体としては今一つなコメディだなくらいにしか思えなかった。

そこから、余計な説明抜きに、たった一つのメール、たった数行の文章で、文字通り一瞬にしてすべてをダークにひっくり返す。これは素晴らしかった。あの死体も、少なくとも一つは、作られるべくして作られたのだ。

言ってみれば、これほど爽快なホラー的ミステリィはない。

そして、それを支えたのが佐津川愛美だ。すべてが明らかになったからこそ、前段のエレベーターでの自殺志望のゴスロリ少女の静かな絶望と、たるかった種明かしのところでの、探偵もの大好き少女の生き生きとした明るさが、表裏一体であったことがわかる。

その人間の暗闇の濃さと深さを、危険な香りと破滅的な魅力を持って演じた彼女は、時にキュートで可愛らしく、そして時に「ぅゎー」と思ってもぐいぐいひきつける力を持って、まさに大女優としての存在感を発揮したと思う。

そういう彼女を軸として振り返ってみると、冒頭の野球のシーンやペナントレースがどうこうしたとかいうのは、はっきり言ってこの映画にはいらない。それさえなければ、佐津川愛美だけなら文句なしの5点の映画だ。もしこの映画の続編があるのなら、ぜひ、彼女を軸に(全面に、ではない)撮ってほしい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)甘崎庵[*]

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