[コメント] 失われた週末(1945/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
脚本や演出など、単純に“映画”としての力を感じざるを得ない映画。
アルコール依存症患者の病院でのエピソードが出てくるが、あのシーンを見れば、主人公が依存症に陥る人間として特別酷い状況にいるわけではないことに気づく。ただ、それでも、ものすごく酷い状況にいるように感じさせるのは、紛れもなく演出の力。
ラストシーンで主人公は酒の入ったコップに煙草の吸殻を落とし、“失われた週末”を取り戻そうとするわけだが、本当のアルコール依存症であれば、こんなに一瞬で治るとは考えられない。それでも、その希望のある結末がしっかり着地できているのは、紛れもなく脚本の力。
大筋とは関係がなさそうな小さな部分での芸が細かい。これがポイントだと思う。
冒頭の紐でつるされたボトル、これはラストシーンで生きる。主人公が語る小説の書き出しが優れているように思えるのは、この細かな設定が面白いからだろう。
2本あるボトルの1本を電球の上に隠す、これが酒を欲する主人公の異常な心理状態の表現に生きる。天井に反射されたボトルの影、あの絵作りに無言の説得力があるのだから。(影に関して言うと、幻覚でコウモリが部屋を飛び回るシーンも恐ろしい。1匹なのにヒッチコックの『鳥』に匹敵する恐怖感がある。これも直前の病院でのシーンが生きているからこそ出る恐怖感。)
「しゃがんで」というキスをせがむ恋人の台詞。男と女の背丈をうまく利用した、スパイスの効いた恋愛描写ゆえに印象的だが、これを序盤に繰り返すことで、クライマックスでの主人公自ら首を屈めてキスをさせようとするシーンも生きる。真逆の設定を作り出すことで、その状況の緊迫感を表現できるのだから。『カサブランカ』における「君の瞳に乾杯」然り。
とにかく、巧い。ビリー・ワイルダー初期の作品だが、50年以上経ってから観ても、テーマ性にしろ、演出にしろ、普遍性を感じさせる映画だ。
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