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[コメント] 子供の情景(2007/イラン)

未来ある子供に手を差し伸べる大人の不在こそがこの映画の欠陥であり、また核でもあるという辛さ。
づん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画のポスター・チラシを見た瞬間、何故か観なければいけない衝動に駆られました。ポスターに写る少女の眼差しに釘付けになってしまったからです。劇中でもどう表現して良いのか分からないほど強くも寂しい目をする少女。バクタイと名乗るこの少女の表情といい、タリバンごっこをする少年達の表情といい、近代の日本では絶対に見る事のない子供の眼差しが、この映画には溢れていました。特にタリバンごっこをする少年達の表情には、目を背けたくなるほどの恐ろしさが宿っています。洞窟に人質を閉じ込め、眠るフリをする少年に、私たちは見たことのない光景を見せられている訳ですが、彼らにとってはそれは日常的な出来事なんだと映画は言っているようです。背筋が寒くなるシーンです。そうして多分この作品は、子供たちにそういう表情・そういう遊びをさせてしまっている大人を批判しているのだと思います。

確かに子供は大人の模倣を繰り返す事で成長していくものだと思います。だからあんな目で世界を見るしかない子供を作り出したのは当然大人の責任です。けれども19歳の監督が描くこの子供たちの世界は、不自然な程に大人がまともに描かれない。子供と大人が会話をするシーンはあっても、対話をするシーンがない。徹底的とまではいかないにしろ、意図して大人を排除している。特に学校の先生たちの子供に対する無関心さといったらない。大人を描く事を放棄したその姿勢は、問題提起はしたにしろ、問題に取り組む事を放棄したようにも取れてしまいます。その不自然さが、この良質な作品に不協和音を生じさせているように感じます。大人をしっかり描いてこその"子供の情景"ではないかと私は思いました。

それはもしかしたら監督が未だ大人とは言えない年齢だからなのかも知れません。けれども逆に言えば、この歳で既にこれだけの作品が撮れてしまっているという事であり、彼女がオトナになった時には一体どんな作品を撮るんだろうと末恐ろしくすらなるんですが。

またこの救いようのないラストを私たちはどう考え、どう捉えればよいのか。あんなにも強い目から大粒の涙をこぼして「戦争ごっこは嫌だ」と立ち向かっていたバクタイが(あれはド本気の涙で、ド本気の訴えだった。あんなド本気をフィルムに収める監督はやっぱタダモノじゃない)、木の銃弾に倒れた。あれほどまでに強い抵抗を見せた戦争ごっこに屈してしまったそのシーンに、紙袋を被った大人が配置されている事がまた絶望的な悲しさを増幅させます。この言いようもない悲惨なラストに、未来を見る事など私は到底出来ません。未来ある子供に手を差し伸べる大人の不在こそがこの映画の欠陥であり、また核でもあるという辛さ。

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2009.07.27記(2009.07.26劇場鑑賞)

(評価:★4)

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