[コメント] 大阪ハムレット(2008/日)
個性豊かな三兄弟のしたたかさに唸らされる。その悩みながらも確実に自分の生き方を完成させてゆくパワーは、明らかに「大阪の下町」というコミューンに助けられ、その開かれた胸襟の広さに増幅させられているのは確かだろう。松坂慶子の深みを知らない演技が残念だが、子役達の生の肯定はその欠点を補って余りある。
この家族の子供たちは、それぞれに問題を抱え苦悩するのだが、問題と闘う真摯な態度への代価のように周囲よりその評価が行なわれ、努力は報われる。場合によってはご都合主義に堕していると見る向きもあろうが、この作品を見る限りその過程は自然であり、子供たちは報われるべくして報われている、と見える結果へのカタルシスがある。
その力を齎しているのが、他ならぬ「大阪の下町」という土地ならではの人々の繋がりだ。持ちつ持たれつ、のような関係を全ての人々と分かちあう煩わしさを嫌う自分には、正直東京の無関心体質のほうが性にあっているのだが、この作品のような温かいコミュニティに惹かれるものがあるのは紛れもない事実だ。人情喜劇というジャンルが未だに命脈を保っている現状は、その作品群の魅力が普遍的であるという何よりの証拠だろう。それは極めて健全な感覚だ。ゆえに、子供たちの奮闘への応援は正当化され、上記のカタルシスは観客の共通認識となる。そして同時に、『ハムレット』という作品の日本において付加されている無駄な権威を、鮮やかに剥ぎ取る快挙でもあるのだ。これはもう、惜しみない拍手を送るだけの気持ちになって当然だろう。
だから、母親が松坂慶子である事実に萎えるのだが…まあ、岸部一徳に免じて気持ちよく忘れよう。と言うより、子役たちの未来が洋々たるものであることを確信しつつ、この稿終わり。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。