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[コメント] 疑惑の影(1943/米)

ヒッチコックの象徴的造形が、世界観として確立されたSO-SO作品
junojuna

今から見ると、そのあまりにも画一化された象徴的造形劇空間が固い印象で、ドラマの行間ににじみ出る綾というものを味わえず、この妙なる人間関係を軸にしたサスペンスという葛藤構造をうまく処理しきれていない感じもあるのだが、しかしその戯画的描写こそがヒッチコック映画たらしめるゆえんなのだということで読み取れば合点がいく。当時の大映画、それはジョン・フォード然り、映画が「過剰なポーズ」をとってこそ立ち上がる前時代的な詩情は、クラシック名画として堪能すべき往時の美味なのだ。視覚の人、ヒッチコックは、やや象徴的に人物を造形しすぎるきらいがあり、役者の演技を型にはめる演出術が、魅惑的な逸脱の彼方に生まれるマジックを許容しない。その点からいえば、ジョセフ・コットンの焦燥がよく動くカメラによって相殺されてしまい、テレサ・ライトの疑念が葛藤を超えて憎悪を想起させる点で大味すぎる。今でこそトリュフォーロメールら、老獪なヒッチコック読みによって明らかにされたヒッチコックの映画術であるが、その時代までなら喝采ものの匠の技も、すべて演出家の想定の範囲内の映画であるのだということに、その技術集約的な完成度をたたえる以上、何も語るべきものをもたない。きわめてオタクな映画であり、効率的な映画。そこに抒情が生まれる余地がないという点で、そういう意味でヒッチコックの再評価をはかるべきだ。

(評価:★3)

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