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[コメント] ハナ肇の一発大冒険(1968/日)

男(ハナ肇)は何気なく遠出し、偶然出会った謎の娘(倍賞千恵子)との不思議な旅に、家族や仕事のことを顧みることなくとことん付き合う。男は決して、日々の生活に疲れていたり、家族に不満があった訳ではない。男の行動に、明快な理由などなにもない。
ぽんしゅう

作品の公開当時、ある日突然それまで普通に暮らしていた人が、家族や友人に何も告げづ姿を消してしまう「蒸発」が社会問題化していた。そんな人間「蒸発」を、男のさすらい願望としてライト級のサスペンスに仕立ててしまうところがいかにも山田洋次らしい。

上品ながら、ほんの少し悪女の匂いを漂わせる倍賞千恵子のチャーミングなこと。ラストのリフレーンも気がきいていて楽しく、なによりも山田洋次が「蒸発」の根底には男の「さすらい願望」があるととらえている証拠だ。

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以下の話は、余談です。

私見と状況証拠だけなので断定はいたしませんが、この作品のジャンルが「コメディ」に分類されているのは誤りだと思います。インターネット上の、他の映画データベースでも「コメディ」とされていますが、先入観なしに客観的に作品を観てみれば、日常描写の「笑い」以外は、どこにも喜劇的演出がほどこされていないことが明白だと思います。

さらに、同じハナ肇主演シリーズは68年1月公開の本作の前後に、67年8月の『喜劇 一髪勝負』と69年3月の『喜劇 一発大必勝』がありますが、この作品だけ「喜劇」の冠はついていません。DVDで3作の予告編を見る機会があったのですが、「喜劇 一髪勝負」と「喜劇 一発大必勝」は当然のことながら明確に笑いを強調した作りになっていますが、この「〜一発大冒険」にその要素はまったくありませんでした。松竹も、喜劇として客を呼ぶつもりではなかったように思われます。

この時期に、東宝の喜劇作品にかけもちで出ずっぱりだったハナ肇と、「男はつらいよ」シリーズの印象が強すぎるあまりコメディ映画監督のレッテルを貼られがちな山田洋次に対する先入観から生まれた誤認が、映画データ上に蔓延してしまった結果なのかではないかと思います。

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■水那岐さんのレビューに対するご返答(追記:2008年1月28日)

いつも、丹念にコメントを読んでいただき恐れ入ります。本作の私のコメント及びレビューに対して、ご意見をいただきましたので追記させていただきます。尚、ご指摘の内容が多岐にわたっているように思いますので、趣旨の行き違いがないよう水那岐さんの文面を引用させていただきながら書かせていただきます。

■まず、私の山田洋次監督作品に対する評価に関して、いささか誤解があるように思われますのでその件に関して書きます。

引用:1 >コメディ作家としてではない山田洋次に好意的だからといって、〜

以下に、私が今まで観た山田作品のなかでコメディではないと考えている映画とその評価を列記します。ご覧いただければ、私がことさら「コメディ作家としてではない山田洋次に好意的」な分けではないということがご理解いただけると思います。

●いいかげん馬鹿 ・・・4点

●ハナ肇の一発大冒険・・・3点

●家族・・・・3点

●故郷・・・・2点

●同胞・・・・2点

●幸福の黄色いハンカチ ・・・4点

●遥かなる山の呼び声・・・・3点

●キネマの天地・・・・3点

●息子・・・・3点

●学校・・・・3点

●学校2・・・3点

●学校3・・・3点

●十五才・学校4・・・3点

●たそがれ清兵衛・・・4点

●隠し剣 鬼の爪・・・3点

●武士の一分・・・・3点

■私の「ハナ肇の一発大冒険」に対する評価とコメントに対して誤解されているかもしれませんので、そのことについて書きます。

引用:2 >コメディシリーズの中のこの作品の異色さを「これはコメディ作品ではないから評価できる」となさるのは、〜

私は本作を、理由は先に述べましたように、「コメディシリーズの中」の作品とは感じませんでした。これは見解の違いなので、いたしかたないことだと思います。誤解があるとすれば、私は「この作品の異色さ」をもって「これはコメディ作品ではないから」という理由で本作を「評価できる」とは思っていませんし、また特に評価もしていません。本作に対する私のシネマスケープ基準による評価は3点です。私の評価基準として3点は、決して高い点数ではありません。

評価という言葉を、シネマスケープの採点という意味ではなく一般用語としての「評価」として使うなら、私は「蒸発」という社会現象をも「さすらい願望」という山田監督の映画作家としての制作原点に帰してしまう姿勢に、いかにも山田洋次らしい面白さを感じて、その部分を「評価」しています。この「評価」と、本作がコメディであるか、非コメディであるかということには、何の関係性も感じておりません。

引用:3 >それこそ贔屓の引き倒しにもなりかねません。

以上の、ことから私が本作や山田洋次監督に対して「贔屓の引き倒し」などしているつもりのないことを、ご理解いただけると思います。

■次の、ご指摘に対しては私の映画を観るときの信条(いや、そんなおおげさなものではなくただの癖かもしれませんが)を、ご説明すればご理解いただけるのではないかと思います。

引用:4 >たとえばぽんしゅうさんは、明らかにコメディ作品である『馬鹿まるだし』をコメディ的視点から観ないことで評価していらっしゃいますが、山田監督は編集後この作品を見返して、「全く笑えない。失敗作だ」と頭を抱えたとのちに述べています(ラジオ「今晩は、吉永小百合です」08/1/27放送分より)。

私は、映画を観るときに、例えばコメディ映画だからと言う理由で、その作品をコメディとしての視点のみで評価しようと思っていません。それは、アクション映画でも、恋愛映画でも、青春映画でも、ポルノ映画でも同じことです。形式(ジャンル)のなかで、いかに表現が優れているかということも、もちろん映画の面白さのひとつだと思いますが、その形式(ジャンル)を借りて、作り手が意識的に、あるいは無意識に発信している「何か」に、より興味を持つ傾向があります。要は、深読みして楽しむのが私の癖なのです。

さらに、山田監督自身が「馬鹿まるだし」を「全く笑えない。失敗作だ」と語っている例を引用されていますが、私は製作者が自身の映画について何を語っているかについて、ほとんど興味がありません(今、これを書いていて、ここ数十年パンフレットというものを買ったことがないのはそのせいだと気づいたしだいです)。自分で観た内容を、自分で勝手に考えて、自分なりに面白いかつまらないかを判断することが、私が映画を観続ける原動力になっているように感じます。

引用:5 >それをぽんしゅうさんなりに別の解釈で観ることは別に問題はないのですが、〜

ありがとうございます。

引用:6 >かと言ってジャンルに文句をつけるといった反応のなさり方はいささか度が過ぎていると思わざるを得ません。

ここまで読んでいただければ、もうご理解いただけたと思いますが、私は『ハナ肇の一発大冒険』の「ジャンルに文句をつけ」ているのではなく、私が観た内容を、自分で勝手に考えて、自分なりにこの映画はコメディではないとの感想をもち、何故この作品がコメディに分類されてしまたのかを想像して書き記したまでだといことです。

引用:7 >なお、『喜劇・一発大必勝』の本編を自分は観ていますが、テイストとしてはギャグ(らしきもの)を散りばめた量は多いものの、基本的には本作と同じシチュエーション・コメディだと受け取りました。

喜劇・一発大必勝』は予告編しか見ていませんが、その限りでは私も水那岐さん同様、これはコメディ映画だろうなと思いました。ただし、もし本編を観る機会があったら、その後何を言い出すかはわかりませんが(笑)・・・。

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貴重なご意見を、ありがとうございました。また、何か気づいたことがありましたらお聞かせ下さい。大変、楽しく励みになります。

せっかく個性的なコメンテーターの方々が大勢いらっしゃるのだから、シネマスケープの掲示板でこんな意見交換が活発におこなわれるようになると楽しいと思うのですが。

(評価:★3)

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