[コメント] 不都合な真実(2006/米)
僕が今働いているエレクトロニクス業界は、環境問題にかなりうるさい。やれISOだRoHSだPFOSだと、毎年のように新しい環境への取り組みみたいなのが仕事に乗っかってくる。2001年、オランダでSONYのPLAYSTATIONがRoHS指令違反を理由に販売停止をくらって以降、日本ではこの流れは特に急激に進んでいる。噂では「日本企業の進出を防ぎたい欧州の一派の絶好の口実にされるから」なんてことも言われているが、その辺りの真偽はわからない。ただ現在エレクトロニクス業界において、世界で最も環境対策が進んでいるのが日本だというのは本当みたいだ。そしてそんな流れを横目に、涼しい顔で「いや、そういうのまだいいから」と言い続けてきたのがアメリカだ。最近ようやく変わってきたみたいだけど、まぁ普通に「こんちくしょう」と思う。
ただだからと言って、僕の環境問題に関する認識が正確な背景に裏打ちされた揺るぎないものなのかと言えば、全くと言っていいほどそんなことはない。「国が取り組んでるし、業界も騒がしいし、きっとそういう問題は事実なんだろう」と漠然と思っているだけだ。てことは、僕がアメリカに住んでいたら「国も取り組んでいないし、業界も静かだし、きっとそういう問題は大袈裟なんだろう」って思うってことなんだろう。
この映画は、そんな“アメリカに住んでいる僕”に向けられた映画だ。更に言えば、そんな大衆の意識を変えることでアメリカの政策を変えさせようとしている映画だ。結局のところ、これはアメリカ人がアメリカの政治を撃っている映画なんだ。僕らは確かにその射程にいるけれど、たぶん射程の円のかなり外側近いところにいる。
もちろんだからと言って何らこの映画を貶める理由にはならなくて、実際アメリカのCO2の排出量は世界一で、にも関わらず京都議定書からも離脱している。更に言えばCO2排出原因の多くは「市民の暮らし」ではなく「発電や工業」にあるわけで、ゴアがアメリカの政策を撃っているのは正しいはず、だと思う。だからこそ彼は大統領選に出馬したんだろうし、落選の結果としてこの草の根的運動を行っているんだろう。
ただ難儀なのが、この草の根運動の対象となっている大衆というのは、前述の僕の例を見るまでもなくかなり印象に左右されるってことだ。自分たちの生活が苦しいときに「貧しいのはユダヤのせいだ!」と国を挙げて言われてしまうと、「そうなのか、うん、そうだそうだ!」と言ってしまうのが“大衆”だ。だからこそその大衆の一人としては、「与えられた情報を正確に読み取りたい」と思う。「情報を吟味して取捨選択したい」と思うし「自分の肌で感じたことを信じたい」と思う。
今作でも事実誤認のようなことが何点かあるという話がある。「プロパガンダ映画だからね。都合のいい部分もあるんだろう」と思う。反面「CO2と温暖化の関連を否定する学者はいない」なんて聞くと、「内容の数カ所が間違ってたところで、大枠は合ってんだからいいだろうよ」とも思う。突き詰めていくと、誤認の件も学者の件もやっぱり人づての話だ。もうこうなるとキリがない。
ただ「肌で感じたこと」で言うなら、ここ最近の夏の暑さってのはキツい。冬もずいぶん雪が減った。これがCO2のせいなのかエルニーニョのせいなのかヒートアイランドのせいなのか知らんが、とにかく暖かくなってるってのは本当だ。それに違和感と不安を感じているのも本当だ。だとしたら、せめて「危なそうなことは止めておきたい」という安全策を「取捨選択の結果」としたいと思う。「映画内の細かな誤認より、大枠の本当っぽいことを支持することにしよう」と思う。
極東の端っこの一人がエアコンの温度を1度変えたところで、この問題は解決しない。どころか日本中の全員が変えたところで緩いブレーキにしかならない。だからアメリカの政策を変えさせるところまでいかないと、この映画の本来の意義は達成されない。それが今後どうなるのかは全然知らないんだけど、そうなってくれることを願いながら、神社の賽銭にも近い気持ちでエアコンの温度を変える。
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