[コメント] 十字路の夜(1932/仏)
こゝで既に効果音を意識させるのだが、以降、肉屋が包丁を研ぐ音、蛇口からの水滴の音、手風琴やオルゴール、蓄音機といった音楽を出す装置、電話やヤスリ、銃声などといった音がラストまで氾濫する映画だ。
勿論、面白いのは音使いだけではない。随所でカッコいい画面が現れる。例えば序盤の舞台となる、パリ郊外のガスステーション兼修理工場の中での男たちを捉えたショットは屋内望遠撮影みたいに見える(空間が圧縮されている)。続くパリの警察署の中での取り調べシーンがタバコの煙でもうもうとした部屋。これに、路上の(警察署の前にある?)キオスク(新聞・雑誌の販売店)の周りがクロスカッティングされる繋ぎもカッコいい。排水溝に流れる新聞のショットを挿入するセンス。主人公メグレ警視−ピエール・ルノワールが聴取する容疑者−左目だけ黒眼鏡のデンマーク人−カールのバストショットが唐突に繋がれるのにも驚く。
あるいは、メグレ警視がパリ郊外へ捜査に赴いてからの雨中の造型や夜間撮影の画面造型もいい。彼が雨の中、路上で仁王立ちになる長いショットの突出感。また、修理工場と併設されている居室との空間を見せる縦構図や、容疑者−左目が黒眼鏡のデンマーク人−カールの邸宅にある階段を使った各ショットも見応えがある。
そして、本作のヒロイン、カールの妹エルゼ−ヴィンナ・ヴィニフリートだ。登場すると、彼女が圧倒的に画面を支配する。そのセクシーな肢体と退廃的なムード。メグレをも色仕掛けで籠絡しようとする典型的な悪女の造型。だが、見る人によって見解は異なるかも知れないが、可愛い一面もある。ラストシーンがメグレとこのエルザの階段でのシーンであり、このエンディングも犯罪映画として実にカッコいい。全体にシーン構成のぶつ切り感など、まだまだ未成熟に思える部分はあるけれど、しかし、やっぱりルノワール、映画性溢れる作品だ。
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