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[コメント] 最後の命令(1928/米)

もう「エミール・ヤニングス、すっげえ!」という感想に終始する映画ではある。
ゑぎ

 しかし、それ(「すっげえ!」)はあと2人の主要キャスト−イヴリン・ブレントウィリアム・パウエルについても、ヤニングスの凄さには劣るとはいえ、肉薄するレベルで云えるのだ。つまり、それはスタンバーグの造型だということだ。

 ハリウッド。1928年。演出家のパウエルが資料を見る。ヤニングスの写真。ヤニングスは登場から圧倒的なプレゼンスだが、顔を小刻みに左右に振動させる所作が異常だ。鉄柵に沢山のモブ。ヤニングスにも衣装が渡される。右へ移動すると長靴。また移動すると帽子。次はライフル銃。男たちがくっついて動く。ディゾルブしてメイクする男たち。このエキストラの準備シーンも実にユニークな画面造型だ。

 唐突に1917年のロシア。いきなり映画中映画に切り換わったのかと錯覚させられる。街中のモブシーン。軍人たち。馬。こゝも見応えがある。オープンカーに乗ったヤニングスが登場すると、もう顔を小刻みに振ったりしていない。いやこの司令官としてのヤニングスのルックスがちょっと名状しがたい実在感なのだ。こゝに建物の窓にいる男女のショットが挿入される。これが革命家のパウエルとヒロインのイヴリン・ブレントだ。ヤニングスの元に連行される2人。このシーンの切り返し、パウエルの正面ウエストショットやアップのリバースショットも強い。ヤニングスのミタメでブレントを足元からティルトアップするショットもカッコいい!また、イマジナリーライン越えの切り返しが全く違和感なく繰り出される。

 こゝから、パウエルはしばらく排除され、ヤニングスと参謀たちに、ちやほやされるブレントのシーケンスになる。もうブレントがどんどん格好よく描かれる。彼女が立ってマフラーをずらすのをアクション繋ぎで見せるカッティング。ヤニングスが晩餐会に出席するようブレントを呼びに行ったシーンのセクシーなドレス姿。あるいは、鏡に映った拳銃を持つブレント。あゝちょっと後なら、絶対にディートリッヒだと思う。

 続く、走る列車の模型が映され、列車内のヤニングスらと革命家たちのクロスカッティングになってからのテンションの強度も恐るべきものだ。機関銃での銃撃と倒れていく人々。民衆の横移動ショット。対照的に陽気に騒ぐ列車内のヤニングスたち。列車が町に入って、包囲されるが、ヤニングス一人で大勢のモブを威圧する。こゝからの怒涛の展開には呆気にとられる。

 終盤はハリウッドの場面に戻って、鏡の中で首を振るヤニングスのショット。こゝからはブレントの出番はなく、今度はパウエルが抜群の存在感を見せる。撮影所の中の横移動ショット。エキストラは本物の軍隊の兵士みたいな扱いだ。塹壕のヤニングスとディレクターズチェアのパウエルの切り返し。ロシア国歌と扇風機の風。タイトルはこゝで科白で提示される。幻影のオーバーラップとパウエルがヤニングスに旗をかけるトラックバック。落ち着きの良さと同時に、映画的な虚実の深淵を感じ、震撼とさせられる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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