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[コメント] オランダの光(2003/オランダ)

「オランダの光」という不在の対象を追い求める旅。

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ボイスにとって「オランダの光」は、エイセル湖の反射光によって産み出される光であり、気象学者にとっては雲間から突然差し込む光である。また、美術史家はそれを芸術家の技法だと言い、そして、芸術家たちはその実在を信じて疑わない。

重要なのはボイスの言葉の真偽ではなく、その言葉を彼に語らしめたのは何かということである。

結局、このフィルムが「オランダの光」を捉えることは無い。オートマティックな再現手段であるフィルムが「オランダの光」を捉えないという事実は、「オランダの光」が画家の技術によって産み出されたものであることを、すなわち、ただ絵画の中にのみ存在するということを証明する。それゆえに、気象学者や美術史家たちの言葉は正しいと言える。

しかし、だからといってボイスや芸術家たちが間違っている訳ではない。既に知られているように、私たちの視覚は常に何らかの仕方で私たちの知と結びつけられている。私たちの眼は中立的に眼前の対象を捉えるのではない。経験や慣習によって形成された「見方」に常に影響されている。

確かに「オランダの光」は、画家たちの技術によって絵画の中に描き出された幻ではあるのだが、ボイスたちの眼は、当時の画家たちの光を捉える技術を備えているのである。それゆえに、彼らの眼には「オランダの光」が見えるのであり、機械としてのカメラはそれを捉えることが無いのである。

見ることを欲する者のみが見ることができる、それが「オランダの光」なのだろう。

(評価:★5)

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