[コメント] コラテラル(2004/米)
昔嗅いだ匂いがする。この匂いは監督の意図したものではないかもしれない。あまりにも私風の解釈にすぎないのだが、私の目に映ったものはこういうことだ→。
オレンジや薄い青色のメタリックな光にのみ支えられた風景は時に1980年代の映像へのごく自然な想起を促すのだがそれ以上の衝撃はない。同様に、1980年代風のどこかけだるい無機的な音楽がデコレーション過剰に盛り付けられるのだが、光と同様1980年代への憧れをもたらすようでありながら、ただ1980年代の意匠をなぞっているに過ぎないような雰囲気を漂わせる。ノスタルジーやオマージュとして導入された1980年代の意匠ではないことが痛切に伝わる。それは仕掛けとしての1980年代なのだ。21世紀という時代を漆黒の影として映し出すための背景光としての1980年代なのだ。
バブリーという一言で片付けられがちな1980年代の本来持つ光芒すら忘れてしまった2000年代に向かって、1980年代が太陽光として照射されるのではなく、熱感を帯びない月の光として鈍い反射を映画の始まりから終わりまで繰り返す。1980年代において大きな美徳の一つであった遊びを忘れ、生き延びることただそれだけを希求し、思い入れとプライドだけは往時と比べてもひときわ高くなった孤独なワーカホリックが2000年代にふさわしい人間像だとすれば、その典型ともいうべき暗殺者をトム・クルーズが演じる。1980年代という時代は思えば、トム・クルーズが華々しいデビューを遂げた時期だ。この1980年代風の皮肉に満ちた光を浴びて、20年というときを過ごしたトム・クルーズがモンスターのようなスター性にきらきらしく輝く。20年前が余りに遠いことを強烈に感じさせるキャスティングであった。
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