[コメント] 黒船(1958/米)
アメリカ人が身を挺して下田村のコレラの蔓延を防ぎ、幼君をいいように操る幕閣たちの閉鎖性をこじ開け、最後に日本人の信頼を勝ち取るという合衆国御用映画。幼君の姿は昭和天皇への、下田の日本人家屋を焼く火は広島長崎を焼いた火への連想を誘う。
この映画は、講話成立6年を経過し現在の日米関係の基調が成立した時期に制作された作品。当時の日米関係の構造が百年前の幕末期に濃厚に投影されている。
「アメリカに決していない女のタイプ」という芸者お吉への愛を語らうジョン・ウェインの言葉の象徴性に注目したい。こうした男にとって都合の良いタイプのお吉こそ、アメリカにとって都合のよい国に日本を仕立てる仕事に加担した日本人たちの象徴なのだろう。
映像の各部分部分を比喩で理屈っぽく読みぬくともっと面白い下地が見えてくる映画だが、ある意味映像そのものに衝撃力がないからそういう見方しか出来ない痩せた映画ともいえるし、逆にそういう読みやすさを許容しうる程度に面白い映画ともいえるわけだ。
丸腰のジョン・ウェインという珍しい設定に目を見張る。『静かなる男』を知る者には、これが唯一無二の設定ということにはならないのだが、小男の日本人に柔道の技をかけられている。素手の戦いでジョン・ウェインがここまで相手にてこずる姿は本作で初見だ。けれども、登場映画のキャリアを通して観ると、彼は、実は「小さいもの」に弱いという役を演じ続けていることに気づく。誰かもっとこのテーマでジョン・ウェインを論じてほしい。クーパーやスチュアートやフォンダと違うジョン・ウェインのヒーロー性の特徴だと思うのだ。
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